人は渚に立つと、自分のなかの自然を感じる。犬は走り、子は笑い、恋人は腕を組み、老人は来し方をふりかえる。ウミガメの子は生まれるとすぐに波打ち際をめざす。渚では海の呼ぶ声が聞こえ、思わず歩き出してしまう。そんな感覚をたどり、日本人の意識の根元にある「常世」(とこよ)を考える。
 常世は死者の国であると同時に、日本列島に黒潮に乗ってやってきた祖先たちの記憶であり、現世とつながっているあの世。渚は常世への入口、常世と現世の境目なのだ。
 沖縄・奄美の文化、浜の暮らし、海の祭りなどから、海をめぐる独自の民俗学を積み上げてきた著者の原点を伝える一冊。
 『海霊・水の女』で平成十三年度、短歌研究賞を受賞した歌人でもある著者の短歌、あるいは南島や九十九里の写真が頁から潮風を送る。