『帯津三敬病院に生きる──抗ガン革命の最前線』 あとがき
帯津良一医師とその病院、そして患者たちを取材し始めてから二度目の年が明けた〇四年一月、東京・池袋駅前のホテル・メトロポリタン地下に「帯津三敬塾クリニック」が誕生した。ホテルの経営母体であるJR東日本が医療の新しい潮流に着目し、都心に代替医療によるクリニック開設を企画した。依頼を受けた帯津医師が、化粧品会社シ−ボンの援助を受け、川越市の本院とは別に、ホリスティック医療の新たな場をつくったのである。前年十二月半ば、帯津三敬病院を定年退職した山田幸子総括婦長が、こちらの専任になっている。
ここでは漢方、気功、ホメオパシ−を中心にした自由診療の医療(完全予約制)が行なわれており、他にも「塾」という名にも表れているように、患者や医療関係者に対するセミナ−も随時開催される。週二回の帯津医師を含め三人の医師が診察にあたっている。当然、診察室は三つあるが、帯津医師の診察室にかかげられたプレ−トには「虚空」とある。日本中の病院やクリニックで、こんな診療科目をかかげている所は、他のどこにもないだろう。
帯津医師は「ここには検査機器もほとんどありませんから、ただ患者さんの話をじっくり聞いてあげるんです。患者さんはいま、そういう治療を求めてるんですね。予約でいっぱいですよ」と言う。まさにナラティブ・メディスンである。この人は日本の医師の中で一番遠くまで歩いてきた人という思いを新たにした。遠くまで歩きながら、しかも、どんな医師よりも患者の近くにいる人、それが帯津良一という医師なのだ。
また、数年前から帯津医師は「二十一世紀養生塾」というセミナ−を主催している。帯津三敬病院の道場で開かれるこれは、病人、健常人を問わず養生に関心を持つ人々を対象にしている。
本文でも述べたようにホリスティック医学は、生老病死という人間のすべてのステ−ジに関わる。単なる医療の枠を超え、人間本来の生き方、病や死との向き合い方を探究する帯津医師の、理想へのひとつのステップでもある。
こうして見てくると、帯津医師はまだまだ先へ歩いていきそうだが、その出発点でもあり、おそらく終着点でもあるのがガンという病だ。四十数年の医師生活を振り返り、帯津氏はこう述懐する。
「ガンは私にとって、生命とは何か、生きるとはどういうことか、そして、死ぬとはどういうことか、それを考えさせてくれる教師でした」
二年近くにおよんだこの本の取材と執筆を通して、私自身もまったく同じことを学んだように思う。「生命とは、生きるとは、そして死ぬとは」、それらに対する答えはまだ見い出していないが、本書が私にとって新たな出発点になるような気がする。読者にとっても、本書がガンをめぐって新しい発見をもたらすきっかけになれば、それに勝る喜びはありません。
最後になりましたが、超多忙のなかを快く取材に応じていただいた帯津良一名誉医長をはじめ、山田幸子婦長や帯津三敬病院スタッフのみなさん、また関係者の方々、そしてなによりガンとの闘い、その胸のうちを語っていただいた多くの患者さん、ご家族の方々に心より感謝申し上げます。また、編集担当の梅村隆之氏にもお世話になりました。みなさん、本当にありがとうございました。
村尾国士 |