ちょうど、40歳。エッセイストの岸本葉子さんは、虫垂がんと診断された。しかも、S状結腸に浸潤していた。手術後、約2年が経つが、再発の不安はいつも頭から離れない。あすをもしれぬ生活を余儀なくされたとき、人はどのように生き、何を考えるのか。
 不確実な日常を乗り越えるべく、サポートグループに入会、漢方、食事療法、行動療方......自律的な患者をめざして、日々の精進が始まる。一人暮らしをしながらの闘病。80歳近くになる母に先立たれた父のこと。これからの仕事のこと。
 辿りついた境地は、前向きだけれども、努力してもかなわぬこともあるということ。死をどこかで意識しながら、毎日を目標をもって生き抜くこと。
 人生は小さな幸福の小さな積み重ねの集大成であると、生活や女性の感情の細部を描いてきたエッセイストがつづる、渾身のがん闘病記にして、静謐なこころの軌跡。
 受容を心の片すみに、まん中には希望を置いて、私は生きていく──。