ヒットラーがほめたから、雪村「風濤図」の株が上がった? かの「源頼朝像」は、じつは「足利直義像」だった? ここ数年の若冲ブームは、なぜ起きたのか? 等伯「松林図」が一番人気の国宝になったのは、いつからか?──「名画」は、描かれたときから「名画」だったわけではない。
 冒頭の雪村「風濤図」。たしかに名画だが、これがとくに有名なのは、戦前の「伯林日本古美術展覧会記念」で、ヒトラーが誉めたから。これが、一人歩きをして、「風濤図」=代表作ということになってしまった。なのに屏風の大作「龍虎図」などは、アメリカに流出している。
 国の威信、学者のメンツ、経済の動向、メディアによる毀誉褒貶??、さまざまな要因が「名画」をつくる。
 20世紀を通じ、とくに「戦後」的状況のなかで形成された、日本美術史に対する視線のフィルターは、思いの外、分厚い。
 名画に張り付いた、思いこみや馴れあいをご破算にして、日本美術の本質を見つめる。日本美術応援団団長・山下裕二が煽動する「日本美術評価史」の試み。