目の前にある机、その上のコップ、ペンも紙も、耳に届く音楽も、すべて誰かがつくったものだ。私たちは数え切れない他人の「仕事」に囲まれて日々生きている。「こんなものでいいでしょ」と思いながらつくられたものは、それを手にした人の存在を軽く扱い、一方丁寧に時間と心がかけられてつくられたものは、それに触れる人を幸福にする。だとすれば、私たちが住む世界が変わるということは、結果としての仕事を生み出す「働き方」が変わるということではないか。

 そんな確信のもと、魅力的な働き方をしている人びとの現場を訪ね歩き、その魅力の秘密を伝えるノンフィクション・エッセイが本書。広い意味での「モノづくり」に関連する分野を対象に、できあがったモノそのものではなく、そのモノを作った人びと、場の雰囲気、環境、アイデアが作品へと結晶化するプロセスに焦点をあてる。

 著者の西村佳哲氏は、ウェブサイトやミュージアム展示物など、各種デザインプロジェクトの企画・制作を行なうかたわら、モノづくりのプロセス、人の働き方・仕事に焦点をあてた取材記事を書き綴る「働き方研究家」である。

 他の誰にも肩代わりできない「自分の仕事」こそが、人を幸せにする仕事なのではないか。新しいワークスタイルとライフスタイルを提案する本書は、仕事について多くの示唆を与えてくれる。