あとを絶たない若者のネット心中、中高年自殺……。年間自殺者が3万人以上というこの国の現状に一石を投じる、一冊の冒険ファンタジーが誕生した。
 タカハシは、単身ニューヨークで暮らす中年料理人。人生に疲れ果てて首を吊った末に、人間の言葉を話すネズミたちに命を助けられた経歴の持ち主だ。
 ネズミたちによれば、正体不明の「憂鬱の砂嵐」が吹き荒れ、ネズミ界、人間界ともに自殺者が急増中らしい。気乗りのしないタカハシだったが、最愛の娘がビルから飛び降りる予言的な幻を見たことをきっかけに、未来を変えたい一心で決死の旅に出ることに。目指すは世界一自殺率の低い国、メキシコだ。かの地には鬱から身を守る4つの宝があるという。どうやらそれは食べ物らしいのだが……。
 44歳。薄毛。お人好しで度胸なし。人類の希望を背負うにしてはとてつもなく冴えない男が、口やかましい天才老ネズミと、勇敢な大ネズミに助けられ、ボロボロになりながらも核心に迫っていく。そして結末は予想もしない方向へ……。
 笑いと涙をさそう展開に、栄養学や自然科学の知識をもりこんだ異色ファンタジー。死を決意した者と遺される者の心情とはどんなものか。命が消えても存在し続けるものとは。家族・友情。そして自分は一体どういう存在なのか。
 こころに迷いを感じているすべての人に贈る、生きる力をリアルに描写した問題作である。
 朝日新聞のティーンズメールも好評のTETSUYA氏が、小説家・明川哲也として執筆した、記念すべきデビュー作品。