訳者あとがき

 友だちが他の子の靴をかくそうとしているのがわかったとき、あなたはどうしますか? 「それはよくないことだからやめた方がいい」とはっきり言いますか? それとも、知らなかったことにして、見て見ぬふりをしますか? あるいは、いっしょになってかくして、その友だちとの「友情」を示しますか? 
それが靴かくしではなくて、コンビニエンスストアでお菓子を万引きしようという誘いだったらどうでしょう? 「友情」を示せば、自分も法律を犯すことになってしまいます。
 友だちがやろうとしていることに対して、「それはよくない」ときっぱり言うのはとてもむずしいことです。その結果、その友だちをはじめ、その子に同調する子たちから仲間はずれにされる可能性が大いにあります。では、仲間はずれがいやだからといって、見て見ぬふりをしたりいっしょになってやってしまったりすることが本当に友情なのでしょうか。
 ホームルームでクラスの問題について話し合っているとき、なかのいい友だちが自分とは反対の意見を言ったとします。あなたはその友だちのことをどう思いますか? あんなことを言うなんてもう友だちじゃない、二度と口をきかない、絶交だ、と怒りますか? 友だちの意見の方が正しくて、自分の意見は間違っているかもしれないとショックを受けますか? それとも、この問題についての考え方が違うだけで、ふたりの友情は何も変わらないと冷静に受け止めますか?
 友だち関係で悩みを抱えている人は、年齢に関わらず、大勢います。悩みの大小を問わなければ、世界中のすべての人が悩んでいるといっても過言ではないかもしれません。この本はジュニア向けではありますが、どこをとっても、大人にも参考になる内容ばかりです。とくに、娘や息子の友だちとの関わり方について書かれた第8章には、多くのお父さんお母さんにとって思い当たることや耳の痛いことがふんだんに盛り込まれています。
 また、この本は最初にイギリスで出版されました。日本の実情に合わない部分については、多少変更したり削除したりしましたが、読んでいただければ、友情に関する悩みや問題はイギリスと日本で共通していることがわかります。どこの国の人もみんな友だちのことで悩んでいる――そう思えば、今まで重かった心が少しだけ軽く感じられませんか?
 友情って何でしょう。そもそも、友だちって何なのでしょう。その答を見つけるヒントがこの本にはいっぱいつまっています。友だちのことで悩んでいる人には、とっておきの参考書となるはずです。