はじめに


 小学校でも、近所の原っぱでも、その時その時の流行があった。それは池でのザリガニ釣りであったり、牛乳のフタ集めだったりといろいろだ。いっとき僕たちはそんな流行もんに夢中になり、飽きてはまた次の遊びに目移りした。
 昭和40年代後半に断トツに流行したのが、仮面ライダーカード集めだった。僕も15円から途中で20円に値上がりしたライダースナックを乏しい小遣いで次々に買い、アルバムもラッキーカードでなんとか当てた。総数200枚くらいは集まっていたと思う。ある日、英語塾に行く途中に近所にある観音様の境内で遊んでいたとき、仮面ライダーカードアルバムと英語塾のテキストが入ったビニールカバンを大きな銀杏の木の下に置いたままにしていた。缶蹴りをやって隠れたりして、カバンから目を離したのが悪かった。カードアルバムをカバンごととられてしまったのだった。その時のショックといったらなんともいえない。大人になったいま、100万円落としてしまうよりも辛い衝撃だといったら理解していただけるだろうか。
 それからの僕はライダースナックや月光仮面スナックの袋を拾って集めるようになり、カード収集はあきらめた。どんなに一生懸命集めても盗まれたり燃えたりすれば一瞬にしてパーになるという無常観を知ってしまったのだ……。

 ブームに乗るタイミングや、のめり込む深さの難しさを身にしみて知った僕だったが、いつかは「子ども」の世界にまつわるブームのことをまとめてみたいと思っていた。
 ウルトラマンだのスーパーカーだの、いままで子どもの世界ではいろいろなブームが消長を繰り返してきた。ところが、ブーム、それも戦後の子ども世界に流行したものを限定して取り上げた本がこれまでにない。確かに特撮やビックリマンチョコのシールについてなど、それぞれについては詳しく記した本がある。戦後の子ども世界という軸足で、通史的にブームを捕まえた本がないのである。
 「昭和レトロ」をテーマにB級文化を研究してきた僕は、これまで特撮やアニメの世界についての執筆はあえて避けてきた。先人の研究によってあらかた、情報や知識は明らかになっているようで、今さら僕の浅薄な知識で評論できるほどの分野ではないからだ。本書ではじめて、マンガや特撮の世界にちょびっと言及することになるのだが、その道のスペシャリストには歯がゆい記述があるかもしれない。消化器も循環器も脳神経も全部できる開業医がいないように、玩具・漫画・特撮・蒐集・風俗文化それぞれを深く極めたサブ・カルチャーのゼネラリストになるのは難しい。そのため、個別アイテムについてはスポットライトの当て方が物足りない面もあるかもしれないが、「広く浅く」という形でブームを網羅することで、それぞれのつながりや、社会的背景、ブーム現象の浮き沈みのサイクルなどが立体的に浮かび上がってくるようには心がけて書いたつもりである。
 また、見方によっては戦後ブームの歴史の特性は、ヒーローやキャラクターが接着剤代わりとなった放送(電波や雑誌媒体)とモノ(プレミアムグッズなど)のメディアミックスの歴史でもあることがおわかりいただけるかと思う。