プロ野球創成期の一九三八年、いまでも「巨人軍最強の捕手」とよばれる男がに入団した。ヤクルトの古田、西武の伊東など、名キャッチャー代名詞ともいえる背番号27番の産みの親でもある吉原正喜。
 熊本工業時代は、のちに打撃の神様、名監督とうたわれた川上哲治とバッテリーを組み、甲子園で二度の準優勝に輝くなど、チームを導いた。
 巨人軍入団後は一年目からレギュラーとして澤村栄治、スタルヒンなど、剛腕のエースたちをリードしていた。
 コンクリートの壁に激突してもボールを離さない闘志あふれるプレー。気さくで愉快なキャラクター。将来の巨人の監督といわれるほどの強いリーダーシップ。捕手なのに俊足という異能ぶり……。吉原のプレーは当時の巨人の名物であり、ファンはそれを楽しみに球場へ足を運んだ。
 しかし四四年、出征。ビルマ・インパール作戦で非業の死を遂げ、球界に大きなショックを与えた。その短い生涯を、親友の川上、千葉茂や川崎徳次ら僚友、遺族、同級生に取材を重ね、昭和初期の世相、野球界と併せて綴っていく。
 これまで言い伝えられた吉原の生涯や澤村、スタルヒンの姿、プロ野球創世記の逸話を、多くのエピソード、証言をもって掘りおこした傑作スポーツ・ノンフィクション。