ルネサンス期のもっとも謎めいた絵画とされるジョルジョーネ(一四七六/七八−一五一〇年)の《嵐》。前景に裸婦と乳児、青年。川の流れに橋が架かり、その先に廃墟。空に稲妻が光り、嵐の近づく気配――。
はたしてこの絵の主題は何なのか? ジプシー女と兵士か、画家の家族の肖像か。ギリシア神話・聖書・文学の一場面。あるいは画期的な無主題絵画の誕生……。
 本書は、この絵画の隠された主題の解読を通して、ルネサンス文化をになった人々の時代背景を再現し、その精神世界を明らかにする。
X線撮影でわかった絵の「修正」から読み解く画家の創作心理。新資料の発掘による絵の注文主と画家の関係。図像解釈学、神話学、歴史学、社会史を駆使する本書は「推理小説のように面白い」とされ、美術史に多大な影響を与えた。パズルを完成させるようにして最後に現れた画家のメッセージとは?
 著者のセッティス教授は一九四一年生まれ、古典美術史・考古学において「未開拓の研究領域」に挑戦しつづけ、現在、ピサ高等師範学校校長。エーコやギンズブルグと共に戦後イタリアのみずみずしい知を代表する著者とその主著を本邦初紹介する一冊。
 ザクスル、ヴィント、クライン、ハスケルとつづく晶文社「図像と思考の森」シリーズの開始です。