あとがき

 いたらない若かった頃のことを書くのは、恥ずかしいです。でも、考えてみると、今もあまり変わらない気がします。年をとると成長するというのは嘘のような気がします。
 こうしていろいろ思い出してみると、私はいつも人に助けられてばかりだったのだ、とあらためて思います。どうしてみなさんはあんなに私に親切にしてくださったのだろう、と驚きます。ありがたいことでした。すでに亡くなってしまわれた方もいますが、それにお礼を言うには遅すぎますが、心からお礼を申し上げます。

 この本を編集してくださった晶文社の中川六平さんを、私は「六平さん」と呼びます。
 六平さんに私が最初に会ったのは、二十一歳のときでした。六平さんのことはここには書きませんでしたが、じつは六平さんは、ここに出てくるほびっとという反戦喫茶の、開店当時のマスターだったのでした。初めてほびっとに行った日、最初に話をした人が六平さんでした。
 反戦喫茶でベトナム反戦運動をしている人というのはどんな人たちなのだろうと思って行ってみたのでした。あの頃の若い男たちはベルボトムのジーンズにTシャツに長髪といった格好で、どうしたってちっと肩いからせているみたいだったのですが、六平さんは長髪でもベルボトムでもなく、エプロンをあてて、なんとなく本屋で店番している人みたいな感じでした。話しやすくて、ちょっと口の悪い、隣のお兄さんみたいでした。
 その六平さんと、長い年月を経てこうして一緒に仕事ができて、しみじみ嬉しく思います。
 あの頃もそうでしたが、このたびもまた、「大丈夫だよ」と六平さんに励ましてもらいました。「書けないような気がします」と言うと、「大丈夫」と六平さんは言います。「変てこなものになってしまいました」とおそるおそる原稿を見せると、「大丈夫、大丈夫」と受け取ってくれました。心から感謝します。