「黄金時代英国で最も頭が良く最も底意地の悪いミステリ作家」(千街晶之氏)として、中毒者急増中の異才バークリーの創造した探偵ロジャー・シェリンガムは、ミステリ史上類を見ないユニークな名探偵である。無類のおしゃべり好きでお節介、犯罪学と人間の性格、それに美味いビールが人生最大の関心事という彼は、好奇心のおもむくまま、事件捜査に乗り出していく。
 シリーズ第二作にあたる本書では、地方都市ウィッチフォードで起きた毒殺事件に興味を抱いたシェリンガムが、現地へと乗り込む。事件はフランス出身の実業家夫人が、夫を毒殺した容疑で告発されたもので、状況証拠は圧倒的、有罪間違いなしとの評判だった。しかし、多すぎる証拠に疑問を感じたシェリンガムは、友人アレック、お転婆娘のシーラとアマチュア探偵団を結成、再調査にとりかかる。
 物的証拠よりも心理的な要素に重きを置いた、新しい探偵小説の誕生を宣言した本書はまた、軽やかなウィットと生き生きした人物描写にあふれた、ユーモア・ミステリの傑作でもある。

☆アントニイ・バークリーの本
フランシス・アイルズ(=バークリー)
「被告の女性に関しては」(白須清美訳 税込二一〇〇円)
☆続刊予定
ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎 武藤崇恵訳
絹靴下殺人事件 富塚由美訳