英国探偵小説黄金時代の革新者として、近年、注目を集めているアントニイ・バークリーが、フランシス・アイルズの別名義で、犯罪小説の先駆的作品『殺意』や、ヒッチコックが映画化(『断崖』)した『犯行以前』という名作を発表していることはよく知られている。このアイルズ名義の作品で唯一未紹介のまま残っていたのが本書。海辺の町に保養にやって来た学生アランは、滞在先の医師の妻イヴリンと親しくなり、ついに関係を結んでしまう。しかし、秘密の関係に深入りしていく彼を思わぬ事件が待ち受けていた……。優柔不断な青年の揺れ動く心理を辛辣なユーモアをこめて描いた本書は、人間の「性格」の謎を追求し、探偵小説の枠組みから一歩踏み出したアイルズの到達点ともいうべき傑作である。

〈晶文社ミステリ〉刊行開始!
ポー「モルグ街の殺人」以来一六〇年の歴史を有するミステリ王国の広大な版図には、いまだ手つかずの空白が数多く残されている。黄金時代探偵小説の革新者としてあらためて注目を集めているアントニイ・バークリー作品をはじめ、本格ミステリから犯罪小説、異色短篇、ユーモア・ミステリまで、さまざまなジャンルの傑作を紹介、ミステリの新たな地平を切り拓くシリーズ。

●近刊予定
『壜の中の手記』
ジェラルド・カーシュ 7月
『ウィッチフォード毒殺事件』
アントニイ・バークリー 9月