あとがき
わが臓器他人の中で安らがば君が代なども歌ひ出さむか
草野比佐男『老いて躊躇』
老人の少しなげやりになった気分の中で、時代にさからう姿勢が見える。私の気分もこれに近い。
年をとるというのは、自分が生きているかぎり、思いもよらず、友人の死に出あうことである。
しかし、ながいつきあいのある人が、私にはまだのこっていて、好運にもその人たちとの対話がここにある。この本の編集者中川文男氏とも、三十有余年つきあいがある。
この対談集には初対面の人も何人かいて、これは望外のよろこび。新しい窓があいた。
本を読むのがおそくなった。三歳くらいから、わりに早く読むことをしてきたので、こては、意外である。
それにしても、読むことは、読む。
新しくあらわれる著作に対して、それらを見わける私の規準は、三つある。
1 この国の現在が困った状態にあること。
2 さらに悪くなってゆくこと。
3 その中で、自分(著者、そして読者である私)がどのように対してゆくかの覚悟をもっていること。
この三つについて、はっきりしている文章に注目する。それについて新しい洞察を私にもたらす文章が重い。自分の書くものは、この三つのことについて、どうか。みなさんお元気で。