ハリウッド映画のような映画を映画だと思っている観客は、羽田澄子監督の作品をみると、ショックをうけるかもしれない。
 スターが登場するわけではない。スペクタクルがあるわけでもない。16ミリ・スタンダードの画面に、みずからの人生を生きる人間たちの姿が映しだされるのである。
 そのような映画にいつのまにかひきこまれていることに気づくと、観客はもう一度ショックをうけることになるだろう。なぜ、こんなにも感銘をおぼえるのか、と。
 一九五七年、三十一歳のとき、初めて演出した『村の婦人学級』から、『薄墨の桜』『早池峰の賦』『痴呆性老人の世界』『歌舞伎役者片岡仁左衛門』などの代表作をへて、最新作『平塚らいてうの生涯』まで、四十五年におよぶみずからの仕事をふりかえったのが、この本である。
 ほかに、旅順ですごした少女時代の思い出や、名取洋之助編集長にきたえられた岩波写真文庫の編集者時代を描いたエッセーも収録、戦後を生きてきた一人の女性の生き方をたどった本としても貴重である。