本にはそれぞれ固有の佇まいがあります。気の利いたタイトルや扇情的な宣伝文句では決して伝えることのできない、ある種の旋律のようなもの。ともすれば聞き逃してしまいそうなその音に、耳を澄ませ、リズムに寄り添う。それは、一握りの「本読み」にだけ許された、静謐で孤独な作業です。
 そんな幸福な「本読み」のひとりである著者の、待望の初書評集。愛おしい本たちの奏でる本音の音に誠実に向き合い、本のエッセンスをたくみにすくいあげます。もちろん、書評は本の作者との真剣勝負。生半可な言葉を並べることはできません。己の身を切るような鋭い言葉で本質をつかみ取るその姿勢は、時に壮絶ですらあります。そんなふうに綴られた84冊篇の書評は、あの本にこんな読み方ができるなんて、という感動や、この本絶対読んでみたい、と思わせる発見に満ち満ちています。
 人生を二度生きることはできないけれど、本を読んで誰かの生き方を追体験することはできる。愛と孤独について。存在の意味について。家族について……。人生に迷った時にそっと寄り添い、答えを指し示してくれる本に出会うためのガイドとしても最適。書評は読書の道しるべであると同時に、人生の道しるべでもあるのです。
 そんな本の力を存分に引き出し、本に本当の声を与える、書評集を超えた書評集の誕生です。