1 愛と孤独について

それぞれ固有の足音――ドゥルーズ、ベケット『消尽したもの』
中途半端な空間――N・ベイカー『中二階』
後ろめたい行為――D・ヴォル『愛の手紙』
あたらしい更年期小説――M・クンデラ『ほんとうの私』
君を名ざすために――『フランス名詩選』
処方箋を出さない観察者――J・ラヒリ『停電の夜に』
論理の物狂おしさ――大澤真幸『恋愛の不可能性について』
恋の双幅図――黒川創『若沖の目』
パリに生きた青春群像――清岡卓行『マロニエの花が言った』
愛欲のコストパフォーマンス――吉野俊彦『断腸亭の経済学』
桃割れした時間の裂け目――久世光彦『桃』
やわらかい紐――野崎歓『フランス小説の扉』

2 言葉について

待機することの厳しさ――R・ラポルト『プルースト・バタイユ・ブランショ』
二重言語がもたらす残酷な愛の歴史――A・マキーヌ『フランスの遺言書』
投書のなかの孤独――C・ホートリー『投書狂グレアム・グリーン』
「国民」の再定義――リービ英雄『国民のうた』
柔らかくて過激な自己検証――高橋源一郎『文学なんてこわくない』
語り口について――保坂和志『〈私〉という演算』
未知の微動を探る試み――小沼純一『武満徹音 音・ことば・イメージ』
言葉の宿り木――杉本秀太郎『音沙汰』

3 家族について

雨の匂い立つ小説――J・ルオー『名誉の戦場』
溌剌とした邪気――M・ダリウセック『めす豚ものがたり』
ゼロを追い求める者――P・ローズ『ゼロ戦』
老女たちの跳梁――S・ジャクソン他『いまどきの老人』
「触れあい」が生む信頼感――グリエルモ、リン『マッサージ大のセイウチ』
夢と夢のあいだに語られる物語――宮本徳蔵『銀狐抄』
外交としての幼年時代――島尾伸三『月の家族』
体温の伝達――小川国夫『ハシッシ・ギャング』
ゆるやかなスクラム――青野聰『永遠のジブラルタル』

4 悦楽について

同時代人としてのマンシェット――J=P・マンシェット『殺しの挽歌』『殺戮の天使』
反=緩やかさの試み――P・ソレルス『ルーヴルの騎手』
仮定で語られる人生――P・ドレルム『ビールの最初の一口とその他のささやかな楽しみ』
規律あるロマンティシズム――P・ぺッティンガー『ビル・エヴァンズ』
絶対値としての若さ――R・パワーズ『舞踏会に向かう三人の農夫』
独房探偵登場――ボルヘス/ビオイ=カサーレス『ドン・イシドロ・パロディ六つの難事件』
犬の悲しみに同化する断章群――R・グルニエ『ユリシーズの涙』
平凡のなかの異常と異常のなかの平凡――伊井直行『服部さんの幸福な日』
わき道にひろがる自伝――佐伯彰一『作家の手紙をのぞき読む』

5 存在の意味について
私立探偵オイディプスの影――J・デュボワ『探偵小説のモデルニテ』
蜂鳥式脱糞の美学――P・グランヴィル『火炎樹』
「偶然」に身を任せた男の物語――P・オースター『偶然の音楽』
少しだけみなしごでありつづける物語――R・サバティエ『ラバ通りの人々』
孤独な探偵が見出した「いま」――カズオ・イシグロ『わたしたちが孤児だったころ』
精神医学から思想へ――渡辺利夫『神経症の時代――わが内なる森田正男』
鬱々とした覚醒――松浦寿輝『もののたはむれ』
闇のなかの堂々めぐり――松山巖『日光』
耳の傾け方――辻原登『遊動亭円木』
わからないことの「回りあんどん」――古山高麗雄『フーコン戦記』
自然体が生む目線の確かさ――玄月『蔭の棲みか』
官製葉書の想像力――平出隆『葉書でドナルド・エヴァンズに』

6 空間について

シルヴァーナの料理と生活――E・ローマー『イタリア・トスカーナに暮らして』
案内としての批評――I・カルヴィーノ『なぜ古典を読むのか』
平泳ぎの心静かな官能――J=P・トゥーサン『テレビジョン』
詩人たちの島の行く末――P=L・クーシュー『明治日本の詩と戦争』
アナログ的な重ね塗り――朱天心『古都』
「青いへそ」の幻――小原雅俊編『文学の贈物』
怪人たちのいるところ――鹿島茂『かの悪名高き 十九世紀パリ怪人伝』
空間のホメオスタシス――岡部憲明『エッフェル塔のかけら』
楕円軌道を認識すること――椹木野衣『日本・現代・美術』
水、この両義的なるトポス――山田登世子『リゾート世紀末』
電波のように偏在する幻――千葉文夫『ファントマ幻想』
UFOの降りない場所――ホンマタカシ『TOKYO SUBURBIA』
フランスの意味を問う 時事通信社配信一九九九年十月
言葉の《tache》、思考の《plan》
小さな差異――ミーヨン『I was born』
引き算の進歩――辻信一『スロー・イズ・ビューティフル』

7 まなざしについて

現在形で息づく対話――M・レリス『ピカソ ジャコメッティ ベイコン』
愛すべき「新種」への義憤――A・シフル『パリジャン』
躍動する読書、強固な批評――芳川泰久『書斎のトリコロール――世紀末フランス小説を読む』
表層としての深み――谷川渥『文学の皮膚』
探偵はクリームソーダを愛したか?――片岡義男『東京のクリームソーダ』
街から邑へ――四方田犬彦『モロッコ流謫』
クオリティーの高い退屈さ――村上春樹『シドニー!』
ゆがんだ正しさへの信念――笙野頼子『愛別猫雑記』
一文字の魔力――松浦寿輝『巴』
内容と形態――清水徹『書物について――その形而下学と形而上学』
対話の「小説化」――小島信夫、保坂和志『小説修行』
内職という天職――宇佐美英治『辻まことの思い出』
反転する生と死――宇佐美英治『死人の書――小説とエッセー』
小説問答――後藤明生『しんとく問答』
赤ん坊のような暖かさ――岩阪恵子『木山さん、捷平さん』
今はもうないものの光――川上弘美『神様』
命の芽のきざす場所――小川洋子『まぶた』

あとがき
初出一覧