二〇〇一年三月、アフガニスタンのバーミヤン大仏がタリバンによって完全に破壊された。
 二輪戦車に乗って天駆ける太陽神を天井画に戴く三七メートルの東大仏。弥勒浄土に屹立した五五メートルの西大仏。周辺の七百もの仏窟。さらに、正確な記述が今世紀になって評価されている玄奘三蔵が七世紀に実見したという大涅槃像。標高二五〇〇メートル、蒼空にも近いヒンドゥー・クシュ山中のこの谷には、かつて仏音のこだまする地であった。
 一九六四年以来、数度にわたり実地調査を行った著者は、中央アジアの歴史と文化の大いなる広がりのなかにバーミヤンを位置づける。ギリシア・ローマの史書、イスラムの地理書、探検家の記録、考古調査、詳細な写真資料などを繙きながら、ギリシア・イラン・インドの文化混淆の豊饒な世界を開く。
 いつかバーミヤンが、宗教の違いを超えた平和の象徴として再生する願いをこめて。カラー口絵二四頁。