未来への手紙

 二〇〇一年のお正月、世紀が変わったからといって特に深い感動はなく、「今日が明日になるだけさ」などと言ってかっこつけていたのだが、年賀状にまじって来た一枚のハガキを読んで感動してしまった。
 一九八五年に書かれたその「未来への手紙」は、二〇〇一年にぼくの本屋「メリーゴーランド」に着くように郵便局で十六年ものあいだ保管されていたのだ。つくばの科学万博のケースに入って来たから、たぶんその会場で書かれたのだろう。
 「十六年先の未来にむけて手紙を書くなんて、すごく妙な気分です」という言葉からはじまって、十六年後にメリーゴーランドという子どもの本屋が元気に存在しているだろうか? はたまた若くて元気な増田さんはどんなおじさんになっているのだろうか? といったような内容で、「自分も相変わらず子どもの本に魅せられたステキなおばさんになっていたいなあ……」と結ばれていて、なんだか、この一枚の過去からの手紙はぼくの中にぐぐっとせまるものがあった。
 ぼくは、あわててその人に返事を書いた。毎月発行しているメリーゴーランド新聞もいれて、「十六年前と変わらずやってますよー。またあそびに来てくださいね」などと書きながら、この手紙の差出人の青野久美さんはどんな人なのか思い出せないのだった。
 手紙をポストに入れてから、ちょっとドキドキしていた。返事がきたらいいなあ……、と期待していたのだ。ところがそれからしばらくして「あて所に尋ねあたりません」という印の押された封筒が帰ってきた。大阪の茨木なのだが、誰か青野さんの新しい住所知りませんか?……
 ともあれ、この一枚のハガキを眺めながら、十六年間、この小さな子どもの本屋が今日までやってこられたのをしみじみとふり返ってみる気になった。一九八三年、晶文社から『子どもの本屋、全力投球!』を出版して、たくさんの人たちに祝ってもらった。手紙もたくさんいただき「その後のメリーゴーランドを書いた二冊目はまだか」と何度も声をかけてもらった。
 うまい具合にと言ってはなんだが、一九九七年から三年間、月一回朝日新聞で「本屋さんの雑記帳」というコラムでいろんな本のことや子どもたちのことを書かせてもらっていて、それをまとめてコピーして、いろんな人にあげていたら、「これ、本にならないんですか?」と言ってもらったので、ついその気になってしまった。
 しかし、本になるならば、その後「いろいろあった」ことも書きたくなった。二十五年間子どもの本屋としてやってきて、本はおもしろくなったのか、売れるようになったのか? 子どもたちはどう変わったのか? 街は変わったのか? 本屋がどうして子どもたちと外へ出るようになったのか? この機会にあれこれ書いておきたくなったのだ。