一九三〇年代に作られたバルナック型ライカの、柔らかな黄色がかったニッケルのノブの美しさに恍惚とし、一九五〇年代のライカM3の惚れ惚れするような白い金属の感触に陶然とする。かと思えばデジタルカメラで撮影した画像データをパソコンにとりこみ、フォトショップで加工したり、インスタントカメラで手軽に写真を楽しむ。今、写真をめぐる環境はアンティークから最新のテクノロジーまで、かくも豊かだ。
 特にデジタル写真という技術の発展は、写真というメディアに新たな可能性を拓いた。「レベル補正」というコマンドひとつで、がらりと雰囲気の変わる写真ができて、驚いた経験がある人もいるだろう。このように撮った画像データをいかようにも加工できるとすると、一瞬の時間を切り取るという写真の本質はどのように変わっていくのだろうか?
 技術の進歩に伴い、世界を自分のものにしたいという欲望から、自分の世界を創りたいという欲望へと移り変わる人間の意識に迫り、まったく新しい写真論を構築。
 アンティークカメラ、中型カメラ、コンパクトカメラ、そしてデジタルカメラ。四種類のカメラそれぞれの特徴を詳しく解説しながら、その楽しみ方も伝授。自らハッセルを担いで撮影に出かける著者の写真論は写真への愛に満ちている。
 写真の歴史を俯瞰し、縦横無尽に駆け抜ける哲学者の勇壮な試み。