東アジアはこの百年来、欧米文化の美意識を受け入れてきた。美人観についても、いまや西洋とのあいだにそれほど大きな違いはない。ところが、近代以前はそうではなかった。たとえば、現在、目がお大っきいのはきれいだとされており、少女マンガなどでは異様なまでに大きく描かれている。しかし、つい一世紀前しは、まったく違っていた。清代中国の李漁は『間情偶寄』のなかで、「目が荒々しくて大きい女」女は性格がきついとし、「細くて切れ目が長い」ほうが性格が優しいという。目が大きいのを評価しなかったばかりか、逆に欠点とされていた。〔…〕近世の中国では小さい手足が、女性美とされていた。足を小さくしたあいがために、纏足という肉体改造まで施されていた。日本はそこまで過激にならなかったが、『都風俗化粧伝』によると、細い手足はやはり「美人の相」だという。
〔…〕むろん、ひと口に東洋とはいっても、地域によってかなり違う。たとえば、清末の中国では、細い眉と白い歯は重要な女性美とされていた。ところが、江戸時代の日本にはお歯黒と眉を剃る風習があったため、同様の美意識はなかった。…