古来、美女は世の憧れを誘う一方で、男の運命を狂わす悪女であり、亡国の元凶であり、女神、異人、薄幸、世のうつろいのたとえであった。狐も蛇も幽霊も、かならず美しい女に化けて出てくるのはどうしたわけか――。
 文化によって時代によって、美人観は大きく変化する。美人は文学や絵画のなかでどのように描かれ、いかにイメージが形成され、機能したのだろうか。美女とは何か。本書は、東アジアにおける美女と美貌と美に関する比較文化史の決定版である。
 そもそも人体美にも美人観にも普遍的な基準はない。たとえば楊貴妃や平安朝のうりざね美人は、スリム願望全盛の現代から見れば「豊満」をこえて「肥満」そのもの。清代末の中国では細い眉と白い歯が重要な女性美であったが、同時代の江戸では眉を剃り落としてお歯黒を塗るのが一般的だった。
 美しさは平均値だという説、平均値からはずれた顔の方が魅力的という説。しかし「美しさ」の視点だけでは、ガングロ・ブームは説明できない。古代から近現代という時間軸と、日本・中国・西洋間の異文化交流の影響とがダイナミックに交錯する記述に息をのむ。『恋の中国文明史』で読売文学賞、『近代中国と「恋愛」の発見』でサントリー学芸賞を受賞した著者の渾身の書き下ろしです。図版多数。