チキンでやっつけろ

 お兄ちゃんなんて大きらい。お兄ちゃんなんて、車にひかれちゃえばいいんだわ。トラにたべられちゃえ。ローラーにまきこまれてぺしゃんこになっちゃえ。かおがいぼいぼの魔女にニンニク入りソーセージにかえられてしまえばいい。
 友だちには、つよいこだと思われてるけど、あのお兄ちゃんのつげぐちやでうそつきのうるさい口くちをふさぐことはできない。

 でも、やられてばかりではおさまらない。お兄ちゃんにいじわるされるたび、わたしなりにしかえししてやるの。お兄ちゃんが、わたしのキャンディーをたべちゃったときには、お兄ちゃんのコーラのビンにニンニクのこなを入れてやった。わたしが宿題をせずにテレビを見ていたのをお母さんにいいつけたときは、お父さんに「とくめい」の手紙をだしたの。映画みたいでしょう。わたしがかいたってばれないように、古新聞の活字をきりとって手紙にはったのよ。「あなたの・むすこは・うでどけいを・くだらない・アイドルの・レコードと・こうかんした」

 そのうえ、きのうは、いつもにもまして、あのバカお兄ちゃんがわたしをおこらせたの。
 ちょうど、テーブルについたときだった。わたしがグラタンをひとくちたべたとたん、あいつが大声でこういったの。「おまえ、手を洗ってないだろ!」
 わたしは、だいすきなグラタンをとりあえず、おあずけにして、洗面所に手をあらいにいった。お母さんが怒るとうるさいからね。テーブルに戻ってフォークを手に取ったとたん、またお兄ちゃんがこういった。

 「お母さん、マドレーヌったらずーっといすをぐらぐらゆらしてるよ! わざとやってるんだぜ!」
 とつぜん、わたしはほほがあつくなった。心臓がどくどくいっている。あたまがいかりでいっぱいになって、なんにも見えない。今度という今度は、もうゆるさない!

 それでもお兄ちゃんにつかみかかるのはがまんした。1週間まるまるテレビを見せてもらえなくなるのはいやだったから。
 ところが、お父さんがぱりぱりに焼けたチキンをお皿によそってくれたとたん、お兄ちゃんがめそめそ泣きだした。
 「なんで、いつもマドレーヌに大きいほうをあげるんだよ」
 わたしはついにばくはつした。あつあつのチキンをわしづかみにすると、ごきぶりづらのお兄ちゃんめがけて、こんぼうのようにふりおろした。
 お兄ちゃんに勝てそうな気がしたのはこれがはじめてだった。本気でおこったら、まるで、魔法の薬をのんだみたい。どうにもならないくらい力がわいてきた。

 と、思ったら。いたっ! がっしりした手が、ふりおろしかけたわたしの手首をつかんだ。
 お父さんの手だ。お父さんはわたしに大声でいった。
「なんどいったらわかるんだ。チキンはフォークでたべなさい!」