はじめに――人はなぜボランティアをするのか?

 本書は、国内外のさまざま分野で、ボランティア活動やボランティア精神にあふれる運動や事業などを行っている五四人の人びとへのインタヴューをまとめたものである。ここには、十七歳の高校生から八○歳を超えたシルバー世代まで、ボランティアという生き方を選んだ、さまざまな人たちの体験と肉声がつまっている。 海外へ単身出かけて国際援助をつづけている主婦。家と会社の往復の生活に嫌気がさして障害者の支援活動をはじめたサラリーマン。震災の現場で救援に走りまわり、いまも心に傷を負った子どもたちを支える若者たち。第二の人生を施設訪問の役者として生きることを選んだ元教師……。基地反対、ホームレス支援、住民投票から、リサイルクル、犯罪防止、犬の救援まで、その立場も、世代も、活動分野も、活動方法も、活動歴もじつにさまざまだ。
 かつて「ボランティア」といえば、一部の篤志家や生活に余裕のある人たちの「奉仕活動」「慈善事業」というイメージが強かった。ところがいまやボランティアのもつ意味も、実際の活動も、驚くべきひろがりを見せている。権利を守るたたかいから、社会的弱者の支援、なにかをつくる活動、あるいは自分の趣味や「生きがい」として。少年サッカーのコーチから環境保護、反戦平和のアクティビスト(活動家)にいたるまで、いまやすべて「ボランティア」という言葉でくくることができるほど、それは日本社会に根ざしはじめている。
 こうしたボランティア活動が注目を集めるようになったのは、言わずと知れた一九九五年一月の阪神・淡路大震をきっかけとしてだった。暗いニュースがつづく日本社会にあって、震災の直後に全国から結集したボランティアたちの姿は、私たちに一筋の希望の光を与えてくれた。それはボランティアという市民の力が、行政や企業とは違うかたちで、十二分に社会に貢献できることを証明した「事件」だった。この年は「ボランティア元年」として記憶され、以後、本書に登場するようなさまざまな市民活動が生まれていく。 さらに、二年前一九九九年にはNPO法(特定営非営利活動促進法)が国会で可決された。二○○一年四月二○日現在で、四千近くの団体がNPO法人格を取得し、全国各地で利益にとらわれない社会的な活動・事業を行っている。いまやこのNPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)といった言葉がマスコミをにぎわさない日はない。そして、これらのNPOやNGOの活動を支えているのも、ここに登場しているようなボランティアたちなのである。
 近年ここまで注目を集めるようになったものの、じつは私たちの身のまわりには、ずっとむかしからボランティア的なるものがあったのではないか。たとえば、お寺や学校などは地域のボランティア活動の拠点だった。「かけこみ寺」の名のごとく困った人がいれば寺がかくまい、それを地域の人たちが支えた。学校の運動会や文化祭行事は、地域の人たちの楽しみであり、拠りどころとして、子どもの有無をこえて地域の大人たちに支えられていた(震災の避難場所にしばしば学校が使われるのは、単に施設としての役割以上に、こうした地域共同体の中心としての名残りがあるからではないか)。 町内会や消防団、青年団などもしかり。これらは(功罪はあるが)防災はもとより、地域の人びとの交流やまちおこし、行政との橋渡し役として機能してき
た。
 あるいは個人に立ち返ってみれば、お年寄りに席を譲る、悪さをしている子どもを叱る、車椅子を押す、道案内をする……など、私たちが当たり前のこととしてやってきたことも、どれもこれも身近なボランティアではなかったのか。ボランティアはけっして遠くにあるものではない。
 「なぜボランティアをするのですか?」という私たちの問いに対して、本書に登場する多くの人が「自分のため」と答えた。なぜなら、ボランティアには仕事や趣味では得られない充足感があるからだ。いままで知らなかった体験、仲間との出会い、金銭でははかれない目的の達成感、他人からの感謝……ボランティアにはさまざまな喜びと感動がある。多くの人にとって、それらこそがボランティアをつづける理由になっている。 オランダの文化史家ヨハン・ホイジンガーは、人間とはホモ・ルーデンス、つまり遊戯する動物である、と定義づけた。それを模していえば、人は生まれながらにボランティアをする生物なのだ、と私は思う。『国民生活白書』(二○○○年)でも、「国民の三人に一人が潜在的な参加希望者」であるとしている。人はなぜボランティアをするのか? そう問われれば、私は「それは人間だから」と答えるだろう。
 近年、「奉仕活動の義務化」が議論されている。しかし、私たちがインタヴューした人びとが語ってくれたのは、まぎれもなく「義務」にしばられない、自由でいきいきとした、それゆえにパワフルな活動である。 ボランティアとは、創造であり、ドラマであり、人生である。この「豊かな世界」に、ぜひ本書を通じてあなたも浸っていただきたい。