プロローグ

そもそもお菓子とは何ぞや……。甘い物屋に加えて物書きという生業上、少なくとも自らのカヴァーする範疇にあっては、折につけさまざまなことに想いを馳せております。この度は縁あって、そうしたことどもに筆走らせる機会を得ることができました。甘き物とその周辺を気の向くままにとりとめなく綴ってまいりたいと思います。しばしお付き合いのほどお願いいたします。

 さて、私たちの祖先は、仏教伝来以降肉食から離れ、農耕漁労をベースとした穏やかな生活を営んでいたようで、粳米や粟、ひえ、魚介類を主食としていました。そしてしばしばそのあい間、つまり間食用として、山野にある木の実や果物を口にしていたといいます。このフルーツやナッツがすなわち果子だったわけで、後に果の上にクサカンムリがついて、果子が菓子と書かれるようになりました。つまり早い話が、源まで遡ると、お菓子の御先祖様はフルーツとナッツだったということで、この点に関しては洋菓子の本家の西欧も変わりはないようです。
 ところでその間食用の果子、すなわち菓子ですが、その昔は梨、栗、ざくろ、りんご、りんご、桃、柿、橘といった「木になるクダモノ」と瓜、茄子、あけび、いちご、蓮の実などの「草クダモノ」がそれに当てられていました。
 今日的な感覚では、何の疑いもなくフルーツとナッツに分けてまとめられるところでしょうが、そうしたとらえ方でなく、それに野菜類も加えた上で、木になるもの、草になるものと区別しているところがおもしろい。妙に分かりやすい分類の仕方です。
 まあよろずアカデミックを良しとする今日にあっては、そうそうイージーにもいきますまいから、昔流はさておき、本書においてはまま現代の常識の範囲にて、分けてとらえていくことにいたしましょう。
 まずは縷々述べましたごとく、お菓子の原点たる果実とナッツ(豆・種実類も含む)、加えて野菜の類をジャンル別にまとめ、それらとお菓子とのかかわりについて筆を進めてまいります。