みなさんは、宮沢賢治の『注文の多い料理店』や『銀河鉄道の夜』や、『なめとこ山の熊』、『よだかの星』を読んだことがあるでしょう。賢治がこれらの作品で言いたかったことのひとつは、他の命を犠牲にして人間の食物としてはいけない、という菜食の思想なのです。彼自身、基本的には菜食をしていたベジタリアンだったのです。自分で耕した畑に、トマトやアスパラガスやカリフラワーなど、彼の時代にはまだめずらしかった西洋野菜を作り、生徒たちと一緒に食べていました。  賢治には『ビヂテリアン大祭』と題された作品があります。賢治はそこで、すべての生き物の存在に対して同情心をもって、肉食をしない考えと、人間は肉食しないでは生きていけないという考えの両派に、論議をさせています。そして「菜食はみんなの心を平和にし互に正しく愛し合える」から、菜食は永遠の平和を世界にもたらす、と力説しています。  世界の食糧危機、紛争や災害の多発、人間同士の憎しみあい、地球の存亡の問題を抱えた今日にこそ、賢治が七十年前に提議した菜食の思想を論じなければならないでしょう。  イーハトーボの食卓で「きれいにすきとおった風」や「桃いろのうつくしい朝の日光」をのみながら、ご一緒に考えてみませんか。