母、美しい老いと死
アンヌ・フィリップ 吉田花子訳 一七八五円
死にゆく母に、わたしは何ができるだろう? ままならない体をおして、ひとりで暮らす自由を守りぬいた母が、いま臨終の床にある。希望のない延命措置は退け、あたうかぎり自然な死をこの家で迎えたい──望んでいた最期をまっとうできるよう、医療者の力をかりながら娘はよりそう。九十歳で逝った母の最晩年を綴る切実な記録。

五重奏
アンヌ・フィリップ 吉田花子訳 一九三七円
パリのアパルトマンに猫と暮らす女教師のアニエス。向かいの部屋に越してきた一家とやがて親しくなった彼女は、彼らの人生の痛みの時をともに過ごしながら追憶に心を揺らす。一家の夫は、ピアニストの若い娘と恋に落ち、妻は、苦しみながらも男を愛しつづける。両親の葛藤を受けとめる多感な息子。心の結びつきと癒しとを描いた静謐な物語。

青空
ジョルジュ・バタイユ 天沢退二郎訳 一七八五円
スペイン戦争前夜。真っ黒い予兆をはらんだ青空の下で、破滅に瀕しながら〈黒いイロニー〉を求め続けた孤独な魂の彷徨を、息づまるばかりの切実さで描くバタイユの傑作。1935年に書かれたまま、なぜか発表まで20年間作者自身によって遺棄されていたこの本源的作品は、その緊迫した言語を通じて何を告知するのか。

マゾッホとサド
ジル・ドゥルーズ 蓮實重彦訳 一九九五円
なぜ、マゾッホは復権されなければならないか。文学史上、そして精神分析学においても、不当に歪曲されてきた十九世紀オーストリアの異色作家マゾッホの宇宙がいま甦える。「サディスムーマゾヒスム」の惰性的な対比を緻密な論理でつき崩し、マゾッホ文学の独創性と優れた現代性を証す、七〇年代を担うフランスの思想家ドゥルーズの画期的な書。

ある父親 PUZZLE
シビル・ラカン 永田千奈訳 一六八〇円
「ジャック・ラカンはわたしにとってどんな父親だったのか」世界に名高い精神分析学者の娘が、〈パズル〉の断片を集めるように記憶をたぐりよせる。家族の崩壊、思春期の終わりの苦しみ、死の床での拒絶……すべては父のせいに違いない。死んだ父と心をつなぐことはできるのか。涙は癒しにつながるのか。胸に響く凄烈なレクイエム。

愛と創造の日記
ナンシー・ヒューストン 高頭麻子訳 三九九〇円
サルトルとボーヴォワールの「透明」な関係とは? なぜゼルダは狂気に走らねばならなかったのか? 詩人シルヴィア・プラスが死を賭けて求めたものは? 創造を荷おうとした古今の女性たちの心の動きを作品や書簡にさぐり、自らの生への問いかけとする、妊娠中の感動の日記。「深い思索と刺激的な挑発にとんだ一冊」(落合恵子氏評)。

三文オペラに恋して
エレーヌ・ファインスタイン 池田香代子訳 二四一五円
1920年代、ナチス台頭前夜のベルリン。キャバレーのウェイトレス、フリーダは、詩人・劇作家のブレヒトに出会う。女は身体からわき上がる思いをステージで歌い、男は腐敗する社会への怒りを演劇にたくした。モスクワ、ニューヨーク、東ベルリン……戦争と政治の嵐が吹き荒れた時代、ブレヒトとかかわり生きた女性の生涯を描くモデル小説。

〈マライーニ・コレクション〉 イゾリーナ
ダーチャ・マライーニ 望月紀子訳 二四一五円
1900年、ボローニャの川で死体の一部が見つかった。エリート将校の子を身ごもり、結婚を夢みていたイゾリーナの無残な姿だった。マライーニは、新聞報道と関係者遺族への聞き取りをもとに、闇に葬られた猟奇的殺人事件を掘り起こす。軍の暴虐に踏みにじられた少女の、失われた尊厳を回復させる鎮魂の書。

〈マライーニ・コレクション〉 別れてきた恋人への手紙
ダーチャ・マライーニ 望月紀子訳 二六二五円
浜辺の町に一人暮らす女性作家が、マリーナ=「浜辺」という名の恋人に綴った、投函されることのない78通の手紙。父に恋焦がれた少女のころ。寄宿舎での性のめざめ。不実な男たちとの恋。年上の夫への満たされぬ思慕。そして女たちとの関係……。作家がたどるひと夏の心の遍歴から、さまざまな愛と性のかたちを問いなおす、喚起力ある秀作。

妻は二度死ぬ
ジョルジュ・シムノン 中井多津夫訳 二一四一円
パリ有数の宝石デザイナーの妻が、ある日、行くはずもない街の通りで、トラックにひかれて死んだ。彼女はなぜ、その日、その場所へ出かけたのか? 事故現場を訪ねた夫は、やがて思いもかけない妻の秘密に行きあたる──。平凡な日常のなかに不意に訪れる人間の危機。ミステリーの巨匠シムノンの最後の傑作ロマン。待望の本邦初訳!