永井荷風(一八七九─一九五九)

──わたしは江戸末期の戯作者や浮世絵師が浦賀へ黒船が来ようが桜田御門で大老が暗殺されようが……とやかく申すのはかえって畏れ多い事だと、すまして春本や春画をかいていたその瞬間の胸中をば呆れるよりはむしろ尊敬しようと思い立ったのである。(花火)
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東京小石川生まれ。二十代の欧米体験をもとに『あめりか物語』『ふらんす物語』を発表。小説に『すみだ川』『○東綺譚』、随筆に『日和下駄』、日記『断腸亭日乗』など。