ライター仲宇佐のメランコリックな日常
2002年10月のダイアリー

仲宇佐ゆり

 フリーターという言葉もすっかり定着して、東大卒業してもフリーターになる人も少なからずいるという昨今、「プー」の別名とも言われたフリーライターという職業も、ものめずらしいものではなくなりました。でもこのフリーライターという職種、その実態はどんなものなのか謎な気がしませんか? いろんな人に会いに行けて楽しいんだろうかとか、ギャラはいいんだろうかとか、やっぱり寝ないで働いているんだろうかとか、普段なに食べているんだろうかとか、自分にもできそうな気がするんだけどとか……。そんな興味にお答こたえすべく、いま売り出し中のライター仲宇佐が、そのメランコリックな日々を日記で公開。はたしてその内実やいかに。

10月×日
 パソコンを開くと、仕事の前につい読んでしまうのが宮沢章夫さんの日記。来年1月に公演する「トーキョー・ボディ」という芝居を作っていく日々が綴られている。オーディションの様子とか、風邪ひいて原稿がたまってるとか。エッセイではぎゃははと笑わせてくれるけれど日記はメランコリック。読むたびに自分もちゃんと仕事しようと思う。

10月×日
 何人かの人から、バイオリニストの諏訪内晶子さんのインタビューを読んだという連絡をもらった。ウェブにひっそりと掲載された短いものなのに、この視聴率の高さはどうだろう。諏訪内さんの人気の高さは想像以上である。「名器ドルフィンを持ってきていたなら、楽器を手にした写真を撮ればよかったのに」と言われた。本人にもお願いしたのだが、楽器は日本音楽財団から借りているものなので、勝手に撮影するのはあまりよろしくないということだった。

10月×日
 同世代の女性ライターと打ち合わせで同席して、目からウロコが落ちる思いだった。今まで、フリーライターになりたいという女性から電話をもらったり、ライターになるためのハウツー本を見かけると、なぜ? と思っていた。確かに仕事は楽しいけれど、きついときはきついし、不安定だし、お金はさっぱり儲からない。でも、きょう会ったライターはきれいなお洋服にジュエリーをつけ、女性誌にいくつも連載を持ち、パリやミラノに出張し、芸能人ともお友達。なんだかまぶしい。みんなが憧れているのはこういうライターだったのだな。こんなライターなら私もなってみたい。

10月×日
 という話を知り合いの編集者にしたら、「パリ、ミラノじゃなくて悪いけど、東京、京都の旅ってことでよろしく」と肥満防止薬の取材を頼まれた。

10月×日
 箱根の芦ノ湖のほとりにあるオーベルジュ「オー・ミラドー」へ。フランス料理を食べて、そのまま泊まってゆっくり過ごせるという優雅なところ。といっても仕事である。オーナーシェフ勝又登さんと青年会議所会頭の対談に立ち会った。
 勝又さんは22歳のときフランスに渡り、73年に帰国して東京にビストロブームを起こした。フランスで見たオーベルジュの華やかさが忘れられず、16年前、箱根にこの店を開いた。料理は大層おいしいらしいが、私たちは水一滴も飲まずに退散。昼食ぬきがこたえる。「いろんなところに行かれて、おいしいものが食べられていいね」とよくいわれるけれど、現実はこんなものなのだ。
 外は台風による暴風雨だった。川のように水が流れる箱根新道を小田原まで送ってもらい、一目散に帰宅。アエラのゲラを返す。夜9時半、小沢昭一さんに電話して徳川夢声についてのコメントをいただく。もったいないくらい丁寧な言葉づかい。こんな風に話をする人はどんどん減っていくのだろう。原稿を終えて窓をあけると、雨はすっかりやんで細い月が光っていた。午前3時に就寝。

10月×日
 対談の原稿を直していたら、午前4時半になっていた。分量が多いので時間がかかってしまう。空が白んできた。明るくなるとなぜか疲労感が増す。やけくそな気持ちになって歌を歌う。窓をあけたら隣家の窓に電気がついていた。けっこう夜更かしな人なのか。

10月×日
 前から気になっていた松涛のポルトガル料理店がすいていたので一人で入る。最近は家にこもっていてめったに外食しないのだが、たまには気分転換。ここは日本で一軒のポルトガル料理専門店だという。野菜のポタージュ、オレンジと紫玉ねぎのサラダ、魚介のシチュー、ライス、コーヒーで千円。おいしかった。アエラの別冊に書いたダイエットの記事が文庫に入るという。2万円いただけるとのこと。友人が書いた湯河原の旅館の記事を読む。すてきな旅館だけど、取材でいくのはたいへんだろうなあ。

10月×日
 夜、ラジオで「宮本武蔵」の朗読を聴きながら渋谷まで歩く。先週も今週も、ずっとパソコンに向っている。唯一の楽しみは夜の散歩。携帯電話を持たずに家を出て、HMVをうろつき、書店に寄って帰ってくる。

10月×日
 今の課題は睡眠時間をどこまでへらせるか。というと3時間、4時間というレベルを想像するかもしれないけれど、目標は6時間。コンピュータ関係の仕事をしている友人は、平日は1日4時間だという。

10月×日
 八ヶ岳産の冬瓜をいただいた。包丁に体重をのせて硬い皮を割り、鶏と椎茸のスープで煮る。夜になっても指先から冬瓜の匂いがしていた。

10月×日
 パタパタと何度も旋回してくるヘリの音で目を覚ました。「最高ですか?」の福永法源が逮捕された朝以来の爆音である。テレビをつけると民主党の石井議員の刺殺事件が起きていた。

10月×日
 代官山の「ゼロファーストデザイン」で、フランス人のプロダクトデザイナー、ジャン=マリ・マッソーさんにお話をきく。66年生まれの男性で、ソファ、いす、ラケットなど様々なものをデザインしている。アーティストとデザイナーの仕事の姿勢の違いなどを話してくれた。「エクスナレッジホーム」という雑誌のお仕事。

10月×日
 日本テレビ「ズームイン!!SUPER」に出演している福澤朗アナと日本青年会議所の会頭の対談に同席する。福澤さんは三十九歳。人当たりが柔らかく、人と会う仕事をしてきた人という感じ。話の途中でフッと聞き役に回り、相手の話を上手に引き出す。夕方6時半からもう1件。今度は人材派遣業のパソナの上田宗央社長と会頭の対談。社長は失業した人を農業の分野に移す構想を固めているという。
 ひょんなことから日本青年会議所の仕事をさせていただいたが、こんな世界があるとは知らなかった。全国津々浦々に747の青年会議所があって、お祭りなど地域の振興に協力している。会員の多くは中小企業の経営者の息子たち。京都では、老舗の若旦那はたいてい会員になっているという。そして五万人の会員の頂点に立つのが会頭だ。「会頭」という名もすごいけど、組織は体育会系。雑誌の取材でも、ダークスーツの男たちがずらりと並ぶ。あの羊羹の虎屋の社長も昔、会頭を務めていた。

10月×日
 BEGINがラジオに生出演した。ゲストとして同じ石垣島出身の具志堅用高が電話で出演し、メンバーに「ごはん食べにおいでよ〜」と言っていた。言われてみたいものである。メンバーの一人はこんな話をしていた。友人のアパートは壁が薄くて隣の部屋の物音が筒抜け。そこにやはり石垣島出身のミュージシャン大島保克と新良幸人が遊びにきて歌い出すと、隣に住んでいるおじさんがテレビを消すのだという。ここにも呼ばれてみたいものである。