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7月×日
みつゆくんという家具職人の友人の展覧会にいった。「みつゆ」とは「密輸」のことで、東京農業大学の学生だったころ、シルクロードの奥地で大量の干し葡萄を仕入れてきて、学園祭かなにかで売っていたことからついたあだ名。本当は山上くんといいます。干し葡萄は売れ残って、しばらくの間、みつゆくんは干し葡萄の山と一緒に暮らしていたらしい。私も一袋いただいたけれど、カリッと乾いた、お日様の味がするようなおいしい干し葡萄だった。大学を卒業したみつゆくんは、田原総一郎さんが出ているテレビ朝日の「サンデープロジェクト」のスタッフになり、阪神大震災などを取材した。そのうち会社をやめて、木曽の上松町で家具作りを学んだ。震災を目の当たりにして、手に職をつけたいという思いがふくらんだという。今は東京の立川に「木とり」という工房をひらいて、注文を受けた家具を作っている。予算に合わせて何でも作ってくれるので、姿見をお願いすることにした。家具のオーダーははじめてなので楽しみ。
7月×日
日曜日。朝9時にガバッと起きあがりバーゲンへ。買物は苦手なんだが、もう着るものがない。去年のワンピースはみんな入らなくなってしまったもので。渋谷と新宿を回って4万円使い、帰宅すると4時をすぎていた。大根の紹興酒漬けを作る。
7月×日
きょうも雨。JALの機内誌「ウインズ」の原稿2,000字を送る。9月号に掲載される熊本市現代美術館の記事。私が美術館の大きな本棚に寝そべっている写真も使われるらしい。もちろん顔は見えないけれど、お腹が出てたらやだな。この本棚はマリーナ・アブラモヴィッチというアーティストの作品で、棚板に横になって本が読めるようになっている。体ごと棚の中に入ってしまうと、押し入れから部屋を眺めているような、自分が透明になったような安らぎを感じる。入館者はだれでも寝ることができる。
7月×日
仕事の打ち上げで、銀座の沖縄料理店「竹富島」へ。同じ銀座の「リトル沖縄」の経営者が最近オープンした店。おいしいし、銀座にしては手ごろな値段なので、広い店内はお客さんでいっぱいだった。おみやげにゴディバのチョコレートをいただく。ノンフィクションライターの一志治夫さんに偶然お会いした。
7月×日
『百年の愚行』が4刷になった。戦争、森林破壊といった世界中の「愚行」の写真を集めた本。ナチスドイツに捕らわれた人々、犀の密猟、傷ついた子供と、ページを繰れば繰るほどいやーな気分になっていく。世界は愚行だらけで一筋の救いもないのだ。本当はもう少し趣向を凝らして訴えてくれるものが好きなんだけど、そんなこといっていられないほど事態は深刻なのだろう。もう許して、といいたくなるこの本を、2,400円出して買う人がいることが救いなのかもしれない。きょうは、いとうせいこうさんと、この本を編集した小崎哲哉さんのトークショー。小崎さんは元新潮社の編集者である。MSN(マイクロソフトネットワーク)に対談の内容を載せるため、六本木の会場へ。二十代、三十代が目立つ。ベトナム戦争の枯葉剤撒布の写真を見ながら、米国批判が炸裂。最後にいとうさんは「こういう写真を見て、絶望しながら絶望しないこともぼくらの責任だ」。
7月×日
森村泰昌さんのインタビュー原稿を晶文社の篠田さんに送る。テープを起こしながら、楽しかった取材の日がよみがえった。
7月×日
ミュージカル「Swing!」を見る。底抜けに明るい音楽とダンスの洪水に、頭のネジがはじけ飛んだ。終演後はカラオケへ。友人はミュージカルナンバーを歌おうとするがみつからない。私は元ちとせに挑戦。むずかしすぎる。あんな裏声出ないよ。
7月×日
インバネスというシャーロック・ホームズが着ているようなコートを作った友人がいた。仕立屋さんとのやりとりや、できてくるまでの期待感もオーダーメードの楽しみのひとつらしい。きょうは鞄のオーダーメードの店、代官山の「オーソドキシー」へ。革の匂いでいっぱいの小さな店には、旅行鞄やシガレットケースが並ぶ。DCカードの会員向け雑誌「ザ・カード」の鞄特集の取材なので、オーナーの女性に話をきいた。この店では、オーナーが客の希望を聞きながらデザイン画を描き、それを職人が作る。客が思い描いたイメージをはずすことはまずないそうだ。ステッチの色、ファスナーの引き手の形など、細部にもこだわることができる。代官山という場所柄、おしゃれなお客さんが多い。思い通りの鞄を作るために、ポンと70万円出した30代男性もいたという。終了後、向いの代官山アドレスのバーゲンへ。ヴィヴィアン・タムのスカートを試着して落ち込んだ。着てみてキツイのではなく、太ももがつかえてはけないのである。「いかがですかあ?」という店員から逃げるように立ち去る。夜は東銀座のワインバー「カーヴ・デ・ヴィーニュ」へ。ワインもお料理もおいしかった。
7月×日
奈良県にある障害者施設たんぽぽの家でミーティング。ワシントンホテルに泊まる。
7月×日
早起きして奈良公園へ。鹿せんべい150円を買ってウロウロしていたら、鹿にお尻を小突かれた。東大寺門前の森奈良漬店でおみやげを買い、ベンチに座って鹿を眺めながら祖母に絵葉書を書いた。夕方、京都に戻り、一度いきたかったイノダコーヒー本店でコーヒーとチーズケーキ。なんだかほっとする。京都はカフェの使われ方が東京と違う。近所のおじさん同士がコーヒーカップを片手に世間話に興じる様子は、東京ではあまり見られない。近くに金市商店という蜂蜜店をみつけ、九州のみかん蜜とトチとソバの蜜を買う。寺町通の三月書房では、友人が探していた内堀弘さんの『ボン書店の幻』を発見。ほかに渡辺孝『ミツバチの文学誌』、タブッキ『島とクジラと女をめぐる断片』などを買った。東京でも手に入るんだけど、ここで買わないと一生その本と出会えないような、そんな雰囲気がお店に漂っている。帰りの新幹線で黒川創さんの『イカロスの森』を読む。いろんな人の旅と人生が交錯して、自分もひとつの旅を終えたような気持ちになった。
7月×日
夜9時に荻窪の友人宅に集合して飲み会。デジタル系の人々なので、発売されたばかりのカシオのカードサイズのデジカメが話題になる。
7月×日
鳥取県知事と青年会議所会頭の対談に立ち合う。片山知事の話は明解だった。子供が6人いて、授業参観にもいくそうだ。担任の先生はプレッシャーだろうな。
7月×日
カフェ・ジェノワーズ青山で「ウインズ」の編集部解散パーティー。現在の編集部はなくなり、10月号からは小学館が編集するという。カメラマン、ライター、デザイナーなど数十人が集まって盛会だった。
7月×日
最高気温35度。近所のギャラリーで島尾伸三さんが『まほちゃん』の写真展をやっているので自転車で見にいく。島尾さんは白いあごひげを生やしていた。島尾さんと潮田さんの『中国茶読本』を買う。
7月×日
NHKの503スタジオで、FMラジオ「世界の快適音楽セレクション」の取材。収録前に出演者のギターデュオ、ゴンチチのチチ松村さん、ゴンザレス三上さん、DJのフジカワPAPA−Qさん、音楽評論家の渡辺亨さんの4人がソファに集まってお話をきかせてくれた。それはありがたいのだが、みな口々にいろんなことをいうし、チチ松村さんが通天閣のイラストのTシャツを着ていたことから、通天閣の歴史が議論されたりして、部外者の私はなんだかよくわからない。PAPA−Qさんが交通整理をするように、番組のイロハを解説してくれた。心の中で合掌。この番組では、それぞれがかけたい曲を持ち寄って感想をいい合う。4人のおじさんがわいわいやってる様子は、子供がキャラクターカードを自慢し合っているのに似ている。トークは台本なし。それでこんなに笑わせてくれるのは、ゴンチチのふたりの関西パワーだろうか。
7月×日
東京芸術劇場で、テノール歌手中島康晴のリサイタル。26歳の若手で、9月にミラノ・スカラ座にデビューする。若さゆえか、まっすぐでスカッとする声だった。十年後、二十年後の円熟ぶりもまた聴いてみたい。外見はクマのぬいぐるみ風。ステージから彼が何か話そうとすると、客席から笑いが巻き起こるような人だった。
7月×日
アイルランド出身のR&Bシンガー、サマンサ・マンバさんの取材。日本では知名度が低いけれど、2年前のデビューシングル「ガッタ・テル・ユー」はビルボードHot100シングルチャートで3位になっている。見上げるような長身の黒人女性で、おへその出るピンクのシャツに穴のあいたブルージーンズをはいていた。19歳。マイケル・ジャクソンをきいて育ったそうで、自分の音楽はまったくアイリッシュではないし、影響も受けていないと断言していた。レコード会社の人にプレゼントされたアフロ犬のぬいぐるみを抱いていた。アフロ犬は来日するアーティストに人気が高いという。
7月×日
駒沢のジャスマックスタジオで友人の結婚式。集まった高校の同級生11人のうち、独身は私ひとり。いつのまにかみんな落ち着いたマダムになっている。そのまま「Very」に出てきそうなかんじ。
7月×日
知人の紹介で、「エクスナレッジホーム」という、デザインやインテリアを中心にした雑誌の編集者に会いにいった。最新号には井上章一さん、赤瀬川原平さん、布施英利さんが寄稿している。過去に書いた記事のファイルを見てもらったけれど、やみくもにいろんなジャンルに首を突っ込んでいるので、自分の仕事を説明するのはむずかしい。消えてしまいたくなった。いつになったらビクビクしないで堂々と振舞えるんだろう。夜は神田の「みますや」で晶文社の中川六平さん、A新聞のHさんと。飲んでいるうちに、だんだん調子が出てきた。
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