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4月×日
銭湯を語らせたら日本一という庶民文化研究家の町田忍さんに、電話で取材のお願いをする。テーマは、年々銭湯が減っていくことについて。MSN(マイクロソフトネットワーク)というウェブサイトの取材だ。今年52歳の町田さんは、大学を卒業して警察官になり、やめてからは、納豆ラベル、グリコのおまけ、銭湯、正露丸など、みんなが見過ごしてしまいがちなものばかりを研究している。銭湯好きが高じて、3年前まで近所の銭湯でそうじの仕事をしていたそうだ。町田さんに取材するのは今回で2回目。ファックスで送ってくれた自宅の地図には、前回と同様、ダンプ松本の住むマンションと雅子さまの実家がかいてあった。
4月×日
夕方から渋谷のON AIR WESTでCOLORのライブ。昨年取材した10代の女の子のボーカル&ダンスユニットだ。「ダンシングオールナイト♪」のもんたよしのりさんの娘、こむぎさんがメンバーから抜けて、きょうから6人の新編成でスタートする。こむぎさんによると、もんたさんは家でもしょっちゅう歌っているらしい。あの声で鼻歌を歌うとどうなるのだろう。阪神が勝っているときは「阪神タイガース♪」。家族3人で車に乗ると、音楽をかけて、それに勝手な歌詞をつけて3人で回していく遊びをしていたそうだ。そんなこむぎさんは進学のためにグループを離れ、かわりに新メンバーが加わった。スポットライトを浴びてはねまわる少女たちを見ていると、だんだん気分が高揚してくる。モーニング娘。にはまる気持ちはこんな感じなのかも。ココアを買って帰り、「SMAP×SMAP」を見る。
4月×日
朝日新聞の水曜朝刊の「ラジオアングル」というコラムを3週に1回、書かせてもらうことになった。ユニークな番組の紹介など、ラジオ界の動きを伝えるコラムだ。きょうは初めての掲載日。配達された新聞をワサワサと開いて自分の記事を探す。ひとりで喜びをかみしめるが、読み返してみると文章がすごく硬い。夜は女子大に合格した友人と原宿のかぼちゃ料理店へ。入試の顛末をきく。すべり止めに落ちて青くなっていたら、本命に合格して狂喜したそうだ。よかったよかった。家庭教師のアルバイトをするという。帰りに「Hanako」のパン特集を買う。パン好きとしては新しい店をチェックしておきたい。知らない店がずいぶん増えていた。
4月×日
築地の「アエラ」編集部にいって、お世話になった取材先に掲載誌を送る。そのあと新橋まで歩いて、駅前で名刺を作った。一番簡単なデザインで100枚1,800円。5分で印刷してくれる。ほんとは色も文字もこってみたいけれど、いつもあわてて作るので、この店に飛びこむことになる。名刺の箱を受け取って、西小山の町田忍さん宅に取材にうかがう。町田さんの部屋はところせましと収集品が置いてあり、おもちゃ箱のよう。取材がおわってグリコのおまけを見ていたら、「あ、それはもう全部そろいました」。「じゃ、今は何を集めてるんですか?」町田さんが棚から取り出した箱には、街で配っているポケットティシュの広告の紙が入っていた。武富士の放火殺人犯の似顔絵入りの紙がごっそり束ねてある。「土地によってデザインが違うんですよ」。こんなところに目をつけるとは。時代は変っても、町田さんの視点は変らない。帰り道、西小山には特殊音楽家のとうじ魔とうじさんも住んでいるなあと思いながら歩いていたら、向こうから自転車に乗ったとうじ魔さんがやってきた。しばらく立ち話をする。
4月×日
マイクロソフトのYさんと晩ごはん。自転車をこいで幡ヶ谷に向い、中国の刀削麺の店に入る。料理人が小麦粉を練った塊を脇にかかえ、ナイフでシュッシュと削って、ぐらぐら煮立った大鍋に落としている。素朴な麺にスープがよくからんでおいしかった。ここは西安料理の店。Yさんは中国語の達人なので、メニューの漢字をいちいち読んでもらって感動する。
4月×日
ありがたいことに、先月休刊した月刊誌「ベンチャークラブ」の連載を「週刊東洋経済」でつづけられることになった。月1回のペースで書かせてらう。初回は松下電工のマイナスイオンドライヤー「イオニティ」のマーケティング担当者にお話をきいた。「きれいなおねえさんは好きですか?」のCMで知られる女性向け商品をずっと担当してきた人だ。さすがは松下。入念な市場調査を元に商品開発をしている。毎年2回、原宿と丸の内でヘアスタイルの定点観測を13年間つづけているという。
4月×日
きのう取材したドライヤーの原稿を書く。「週刊東洋経済」の八重洲地下街特集の取材に加わることになり、打ち合わせと下見にいく。そして赤坂のサントリーホールへ。佐藤しのぶ「椿姫」オペラティックコンサート。「椿姫」のハイライトシーンで腹を立ててしまった。父親が息子の恋人に会いにきて、息子と別れてくれと説得する場面だ。自分で別れさせておきながら、「あなたの犠牲は崇高だ」とか、「あなたには幸せになってもらわなければ」とか、ぬけぬけと歌うのでムカムカする。でも曲はきれいだし、父親役は上手な歌い手なのでなんだかくやしい。休憩時間に同行の紳士に訴えると、「唯々諾々と別れてしまう男のほうも情けないですな」とクールな反応だった。
4月×日
朝9時、町田忍さんに電話して謝礼の振りこみ先をきく。「朝早くからすみません」というと、「ぼくはいつも7時に起きてますから」とシャッキリ。見習わねば。きょうはハードスケジュールだ。八重洲の東京駅名店街で午後2時から4軒の店の取材と2軒の写真撮影がある。「潘街粥麺専家」という、香港麺とおかゆの立ち食い店の取材には、社長の潘甘誠さんが応じてくれた。今年1月にオープンした店は大成功で、利用客は1日1,000人、4月の月商は800万円になりそうだという。これから全国の駅に出店していきたいとのこと。潘さんは38歳。高級中華料理店「海皇」の社長でもある。パリッとしたスーツ姿の潘さんの隣には、プリントのシャツに短髪のちょっとすごみのある事業開発本部の男性が寄り添うように立っていた。喫茶マイアミでコーヒーをごちそうになる。社長に話をきいている間、事業開発本部の方は手持ちぶさただったらしく、私のノートに注目していた。急いでメモをとるので、ミミズのような字なのだが、「今、こっちがいう前に『メリット』って書いたでしょ。すごいなあ」と感心される。ときどき取材先の人に、子供みたいな字ですねとか、字が大きい、ひらがなが多い、といわれる。慣れない取材に堅くなっている相手も、私の幼稚なノートを見ると気がぬけるようだ。
4月×日
きょうも八重洲の取材。JRの関連会社で「東京駅名店街」を経営する鉄道会館の社長に話をきく。案内された社長室は窓のない小さな部屋だった。デスクの横にはCDが並んでいる。59歳の社長は、映画「ブエナビスタ・ソシアルクラブ」をみて、映画に登場するオマーラのコンサートに行こうと、自らチケットぴあに並んでチケットを手に入れたそうだ。JRから異動してきて商売とは無縁の人なのに、有名ラーメン店を集めた「ラーメン激戦区」を作ったりして、東京駅名店街のリニューアルを成功させている。
4月×日
朝日新聞のコラム「ラジオアングル」の2回目は、インターネットでラジオを楽しむというテーマにした。無料でダウンロードできるウィンドウズ・メディア・プレーヤーやリアル・プレーヤーというソフトを使うと、いろいろな国のラジオ放送をきくことができる。フランスやポルトガルの放送をきいてみた。あれこれ試しているうちに、時間がどんどん過ぎていく。マイクロソフトやアップル、文化放送、ニッポン放送、毎日放送などに電話で話をきく。ラジオ局の人はとても親切。
4月×日
特殊音楽家とうじ魔とうじさん、不思議美術家松本秋則さん、元舞踏演芸家村田青朔さんの3人のユニット「文殊の知恵熱」のパフォーマンスを久しぶりに見ることができた。大きなビニール袋や木箱を楽器にして、体を動かすことでいろいろな音を出す。ふくらませた袋と取っ組み合って空気をぬいたり、走って風を送ったり。音の出る仕掛けは、どれも思わず笑ってしまうかわいらしいものばかりで、ほんとにきてよかった。今回は放送禁止歌などで知られる山平和彦のコンサートのゲストとして登場したので、私のように文殊を目当てにきた人はたぶん少ない。それでも、新しい楽器が登場するたびに観客はどよめき、とくに子供は身を乗り出して興味津々だった。「文殊の知恵熱」は今年、インド公演をするという。とうじ魔さんは、お客さんの反応が楽しみといっていた。きっとインド人もびっくりだろう。
4月×日
銀座の近藤書店で友人Kさんと待ち合わせ、有明で開催中のブックフェアへ。本好きのKさんは、たくさん買えるようにカートを引っ張ってくるとはりきっていたのだが、あいにくの雨で断念。それでも会場に入ると「2割引!」の札に一気に盛り上がり、本を物色しはじめた。新刊を安く買える機会はめったにない。みすず書房のブースでは、ふたりとも高くて買いしぶっていた本を手に入れた。彼女は『つむじ風』、私は『謝花昇集』。ほかに鹿島茂『馬車が買いたい!』、周防正行『インド待ち』などを買う。
4月×日
京王線の芦花公園駅で降りて、住宅街にある尺八奏者の中村明一さんの事務所を訪ねる。アエラの取材。尺八という楽器は、時代劇によく出てくる、編み笠をかぶって修業して歩く虚無僧が吹く笛だったそうだ。中村さんは、今も全国に残る虚無僧の曲を発掘して、よみがえらせている。九州の虚無僧の曲を集めたCDを聴いたら、意外に激しい曲が多くて驚いた。
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