ライター仲宇佐のメランコリックな日常
2002年2月のダイアリー

仲宇佐ゆり

 フリーターという言葉もすっかり定着して、東大卒業してもフリーターになる人も少なからずいるという昨今、「プー」の別名とも言われたフリーライターという職業も、ものめずらしいものではなくなりました。でもこのフリーライターという職種、その実態はどんなものなのか謎な気がしませんか? いろんな人に会いに行けて楽しいんだろうかとか、ギャラはいいんだろうかとか、やっぱり寝ないで働いているんだろうかとか、普段なに食べているんだろうかとか、自分にもできそうな気がするんだけどとか……。そんな興味にお答こたえすべく、いま売り出し中のライター仲宇佐が、そのメランコリックな日々を日記で公開。はたしてその内実やいかに。

2月×日
 新学期がはじまる4月は、雑誌や新聞の企画が切りかわる時期でもある。曙親方の記事がのっている朝日新聞の日曜版は3月でなくなるし、月刊誌「東洋経済ベンチャークラブ」は休刊。今やっている続き物はみんな終ってしまう。でも、かわりにポツポツ新しい仕事が見えはじめた。ラジオ番組について書く仕事をやらせてもらえそうだ。ラジオはわりとよくきいている。朝起きるとJ-WAVEをつけるし、料理や洗濯をしながらもきく。耳だけで目は自由になれるのがいい。

2月×日
 酒ビンを床にたたきつけて割るパフォーマンスを見にいった。アーティストの松陰浩之さんが、表参道のミヅマアートギャラリーで毎晩やっているのだ。準備ができるまで、観客に赤ワインがふるまわれた。松陰さんは黒革のジャンプスーツにゴーグルをつけて、肩をもんだり屈伸運動をしたりしている。ガラスビンをコンクリートの床に次々に投げはじめた。ガッシャーンとものすごい音がして破片が飛び散る。と同時に稲妻のような光がビカビカ光る仕掛けになっている。危ないので、観客は窓の外からみる。暴れる猛獣をおりの外から眺めるような感じ。勇気のある人はギャラリーの中に入ることもできる。ビニール傘をさして、飛んでくるガラス片をよけながら見るのである。私は迷わず中に入った。危険な上に100円の入場料をとられる。30分に100本以上のビンが粉々になった。

2月×日
 何年か前、よく一緒に仕事をしていたフォトグラファーのミワタダシさんが個展を開いた。東京でひとり暮しをする20代、30代の男女を、その人の部屋で撮った作品だ。名前、生年月日、家賃、なぜ東京に住んでいるのか、といったコメントがそえられている。看護婦、コスプレ店の店員、会社員、モデル、理容師……。写真と短いコメントから人物を想像するのが楽しい。ミワさんはもしゃもしゃのロングヘアの持ち主で、なんだかこっちも暗い顔してられないなあと思わせる雰囲気がある。そのせいか写真の中の人たちはみな生き生きしていた。私の写真もあった。撮影されたのは1年以上前。ひざを抱えて遠くを見ている。知らない人みたいだ。今はもう割れてしまった金魚鉢が写っている。下北沢の山本商店で買ったんだっけ。感傷にひたっていると、友人は私の写真を指して「CMでウォークマンきいてたお猿の次郎に似てる」という。目黒の「とんき」でロースかつ定食を食べて帰った。

2月×日
 パソコンに向っているうちに窓の外が白々と明けてきた。カラスが鳴いている。情けない。夜のうちに終らせるはずだったのに。寝るのはあきらめて家を出た。きょうは青年会議所の人と新潟で待ち合わせ。オーベントーという米国製駅弁を買って新幹線に乗る。東京は雲ひとつない青空だったのに、トンネルをぬけると湯沢から先は大雪だった。この冬の東京は雪が降らなかったから、初めての雪。新潟駅近くのビジネスホテルに泊まる。

2月×日
 取材先のお宅で朝から雪見酒をいただく。雪見酒といっても日本酒ではなくコアントロー。一気に飲み干すと冷えた体があたたまって具合がいい。これが雪国のもてなしなのだろうか。窓の外は広々した日本庭園だった。池を中心にすり鉢状に土が盛られ、松と石燈篭が配置されている。数十本はあろうかと思われる松の1本1本に雪吊りがしてあった。同行した地元の人が、「これ、すごくお金かかるんですよ」とささやいた。松に雪がしんしんと降り積もる光景は、いくら見ても飽きなかった。取材を終えて昼食は「ドカベン」という店へ。水島新二の弟さんがやっている居酒屋のようなお店で、店内はイラストや、清原、松井、原などの写真でいっぱいだった。「ドカベン」を注文する。アルミ製のお弁当箱に、卵焼き、かまぼこ、トンカツなどお弁当の定番おかずがぎっしり詰まっていた。

2月×日
 自分の年収を知るのはちょっと怖い。ふだんは原稿料を細かくチェックしていないから、月収も知らずにいるけれど、確定申告の時期になるといやでも知らされる。今回は少ないことがわかっていたので、なかなか申告の書類をつくる気になれなかった。でもそろそろやらないといけない。深夜までかかって、収入の明細書や領収書の山を計算する。収入は100万円以上減っていた。原因を振り返ってみると、「サイアス」の連載がなくなったこと、沖縄の取材と原稿に時間がかかったこと、そのあと仕事のペースが戻らず、のんびり過ごしてしまったこと。今年はもっと働こう。

2月×日
 銀座の紙百科ギャラリーで、津野海太郎さんと筑摩書房の松田哲夫さんの対談をきく。このHPにのせるための構成の仕事をいただいた。

2月×日
 友人のマンションでタイ料理の夕べ。オーストラリアのブリスベンに住むライターの男性と話した。毎朝5時に起きて昼まで原稿を書き、午後は取材やネタ探し。夜9時すぎには床につくという。さらに週2日は地元のサッカーチームでボールを蹴る。なんと理想的な生活だろう。こんなふうに自己管理できる人がフリーランスにむいているのだと思う。

2月×日
 料理研究家で栄養士の小田真規子さんにMSN(マイクロソフトネットワーク)のニュースセレクトという欄の取材をした。サプリメント市場が急成長していることについてきく。小田さんは寝不足らしいのにお肌がつるつる。栄養のバランスがいいのだろう。『ダイエットお菓子』など今年に入ってすでに3冊の料理本を出している。日曜日のきょうも、池尻大橋にある自分の会社に出勤してレシピを書いていた。昨年、会社にいかなかったのはたったの10日だったそうだ。「泳ぎつづけるサメみたいなもので、止まると死んじゃう」と笑っている。終了後、おでん屋「おかめ」で夕食。小田さんは「きょうは6時間眠れる」とうれしそうに帰っていった。こちらは毎日8時間寝ているとはいえなかった。

2月×日
 週刊誌の居酒屋取材の下調べのため、学芸大学の「天狗」にいく。近所の友人を誘ったら外出中なので、さびしくひとり居酒屋。しかし入ってみると、ファミレスとあまり変わらない。ひとりでも平気平気。ビール280円、イカゲソピリカラ揚げ320円を注文し、取材相手をスカウトしようと店内を見回すが、該当者なし。メニュー研究にうつる。クリームソーダなどソフトドリンクが充実している。プリン付きのお子様メニューもある。もはやおじさんの店ではないのだ。と思いながら、からっぽの胃にビールを流し込んでいたら、手と顔がみるみる赤くなった。自分でもギョッとするくらい鮮やかなピンク色になっている。ミニ鮭いくら丼400円を食べて立ち去った。

2月×日
 温泉地の秘宝館のようないかがわしさが漂う渋谷パルコの「しりあがり寿歴史資料館」へ。私の中で静岡県出身者といえば山口文憲さんとしりあがりさん。そのしりあがりさんの今日までの軌跡を、幼少時の写真、多摩美大の卒業制作、ボツ原稿などでつづる展覧会だ。編集者の「ボツ!」の言葉にのけぞるしりあがりさんの人形や、学生時代のアパートを再現したCGまであって、もっとほかのところにお金をかけたほうがいいんじゃないかと、つっこみたくなる。キリンビールの社員だったころの写真に衝撃を受けた。おとなしくまじめなサラリーマン風。現在の男前の片鱗はみえない。人はわからないものである。そういえば私もキリンビールを受けた。1次面接は運よく高校の先輩に当たり、担任だれだった?みたいな話だけで合格。2次であっさり落とされた。

2月×日
 しりあがりさんの展覧会のチラシには、各界から賞賛の声がよせられている。「なぜこんなにも優しいのか」「良い人すぎるにもほどがある」「元祖癒し系」「のんびりお茶に付き合ってくれる」「飾らない人柄がいい感じ」……。ベッドに入って『流星課長』を読む。傑作だ。