ライター仲宇佐のメランコリックな日常
2001年7月のダイアリー

仲宇佐ゆり

 フリーターという言葉もすっかり定着して、東大卒業してもフリーターになる人も少なからずいるという昨今、「プー」の別名とも言われたフリーライターという職業も、ものめずらしいものではなくなりました。でもこのフリーライターという職種、その実態はどんなものなのか謎な気がしませんか? いろんな人に会いに行けて楽しいんだろうかとか、ギャラはいいんだろうかとか、やっぱり寝ないで働いているんだろうかとか、普段なに食べているんだろうかとか、自分にもできそうな気がするんだけどとか……。そんな興味にお答こたえすべく、いま売り出し中のライター仲宇佐が、そのメランコリックな日々を日記で公開。はたしてその内実やいかに。

7月×日
 朝早く、大家さんが訪ねてきた。ランニングに白いエプロン姿である。私はパン工場の上に住んでいる。窓をあけると、焼き立てパンのにおいが流れ込んでくる。焼いているのは食パン、バターロール、コッペパン。引越してきたころ、大家さんの息子に「食べてみる?」とレーズンロールを差し出されたことがあった。まだ温かくて甘いパンを食べながら、ここにしてよかったなと思った。最初のうちは、朝早く動き出すミキサーの音で目を覚ましたけれど、いつのまにか気にならなくなった。昭和ヒトケタの大家さんは、「あんたの契約、来月まででしょ。どうする? うちは更新料は取らないよ」という。この部屋は、窓の前がちょうど隣家の屋上庭園になっていて、緑が見えるのも気に入っている。金木犀が咲き、ビワが実をつけ、猫がゴロゴロしている。迷わず更新することにした。

7月×日
 日刊ゲンダイの記者から電話をもらった。前に連載した「ターミナル駅の快得スポット」の番外編で「ターミナル駅の冷え冷えスポット」をやるという。駅の構内で、タダで座れて涼めるところ、しかもきれいなおねえちゃんがいっぱい通るとか、プラスαのある場所を探せという。そんなとこあるんだろうか。さっそく渋谷駅と新宿駅をさまよう。暑くてぐったり。いいねえ学生さんは夏休みで、とひがみっぽくなる。あとで聞いたら、記者自身も東京駅を2時間歩き回ったそうだ。

7月×日
 環七沿いの「コジマ」にテレビ台を見にいく。広告の1500円の品はいまひとつ。冷蔵庫も見たけれど、やっぱり鉄とプラスチックのかたまりにはなじめない。今ある壊れかけの冷蔵庫をだましだまし使うことに決める。初めてパソコンを買ったときも抵抗があった。秘書をしていたころで、上司はしきりにデスクトップをすすめた。自宅でも仕事をしてほしかったらしい。この小さな部屋にあんなものを置くのはたえがたく、結局ノートパソコンを選んだ。まだiMacもなかったころである。ものすごく重いノートパソコンだけど、今も気に入って使っている。

7月×日
 下北沢の居酒屋「宿場」でジャーナリストの友人と飲む。数人で本を書いたら、原稿料が現物支給だったといって怒っていた。夏休みの下北沢はどこもすいていて歩きやすい。

7月×日
 午前10時東京発の「のぞみ」で名古屋へ。1泊2日で「アエラ」の取材。たまった仕事を終らせるために、出張の前日はいつも寝不足になってしまう。名古屋では不妊に悩む人の体験をきいた。1時間ですむような話ではなく、気がつくと2時間半が過ぎていた。上手な聞き手になるのはむずかしい。私はわからないところをすぐ質問するくせがあって、話の流れをこわしてしまう。あとで録音テープを聞くと、自分のインタビューの下手さにがっくりする。マヌケな質問をしている自分の声ほどゾッとするものはない。バカバカッと髪の毛をかきむしっても、もうおそいのである。
取材が終って、名古屋らしいものを食べようと、味噌煮込みうどんの店でおそい昼食。焼肉屋のような紙エプロンを首から下げて土鍋に向う。となりのテーブルの家族連れは、ざるそばとおでんを注文していた。運ばれてきたおでんがすごかった。こんにゃくも玉子も真っ黒。八丁味噌で煮込んでいるのだ。ざるそばのつゆも、もちろん八丁味噌仕立て。八丁味噌まみれになって、名古屋城前のKKR名古屋ホテルに泊まる。朝食付き6,850円。

7月×日
 朝7時に起きて金のシャチホコを見にいく。ふだんはこんなに早く起きない。雨の中を歩いったら、お城は9時まで開かないというので、ホテルに引き返して朝ごはん。スクランブルエッグにカリカリベーコンとオレンジジュース。
 出張にいくと本を買うくせがある。ホテルでひとり過ごす夜、読むものがないのは不安だし、新幹線で退屈するのも不安。名古屋の駅ビルには巨大な三省堂書店があって、仕事用に『赤ちゃんが欲しい大百科』、文庫で江國香織『いくつもの週末』、森茉莉『記憶の絵』を買う。貧乏性で、読み終わった本は必ず持ち帰るので、荷物はどんどん重くなる。鏡を見たら、バッグの肩ヒモの当たるところが内出血していた。

7月×日
 江國香織のエッセイを読んでいて、猛烈にチョコレートが食べたくなった。デメルというおいしいチョコレートが出てくるのである。ここ数年、私はチョコレート中毒だった。食べないと仕事ができないような気がして、ひとしきりバリバリ食べると、ようやく落ち着いてパソコンの前に座ることができた。先月、体重を減らし始めたとき、おやつを一切やめた。チョコレートも忘れようとしていたのに。高島屋の食品売場にいくと、あるある、マーガレットの絵のついたデメルの箱が並んでいる。3往復したあげく我慢して立ち去った。

7月×日
 秋からの仕事に向けて、力士と面会する。名前はまだ書けないけれど、月に一度のペースで話を聞かせてもらうことになりそう。

7月×日
 写真撮影のため、羽田空港で力士と待ち合わせ。といっても、搭乗手続きは付き人がするので、彼は車から降りてサーッと出発口に入ってしまう。撮影時間は30秒しかない。有名人は人だかりを避けるため、たいていそうするらしい。カメラマンは腕のいい人で、わずかな時間にしっかりおさえてくれた。

7月×日
 「『Shall we ダンス?』アメリカを行く」を友人に借りて一気に読む。映画「Shall we ダンス?」がアメリカで公開されたときの周防正行監督の体験談。映画を素材にアメリカ人の物の見方を書いた本でもある。モニターの意見を聞きながら、万人受けする映画に編集し直していくところがおもしろかった。監督にとっては、苦労して完成させた作品をズタズタにされる屈辱的な話である。あんまり気の毒なので、読みながら、負けるな監督!という気持ちになった。でもそういえば、周防監督には2回、取材を断られたことがあったな。

7月×日
 「Shall we ダンス?」を見直したくなり、新宿のツタヤでビデオを借りる。やっぱり竹中直人はすばらしい。何度見ても笑える。気持ちが暗くなったときは直人を見よう。

7月×日
 新宿御苑の「シェフス」という中華料理店で会食。雑誌のライターやデザイナー数人とたまに食事をしている。みんなフリーランスなので、税金の申告といったフリーならではの相談ができるし、デザイナーの立場から見た雑誌作りの話を聞くのはおもしろい。ライターは記事の内容のことばかり考えているから、ハッとさせられる。長時間パソコンに向っている人たちなので、共通の悩みは肩こり。5人のうち3人が水泳で解消していた。きょうの料理は、クラゲと胡瓜の前菜、帆立と百合のつぼみのサラダ、海南鶏など、どれもおいしくて、幹事の私は鼻高々であった。

7月×日
 知人の紹介で「オモロ研究会」に参加させてもらった。「おもろさうし」という沖縄最古の古謡集を、国語学者の外間守善さんに解説してもらって読むという、贅沢な勉強会である。終ると一部の人だけ残って、今度は「那覇由来記」という古文書を読む会になる。古地図を見ながら、昔の那覇の様子をたどっていく。この日の出席者は10人ほど。戦前の那覇に住んでいた人たちもいて、「この寺はどのへんにあったんでしょうね?」「ほら、あなたの家の後ろ側のところよ」などという会話が交される。当時は水道がなかったから水を買っていたとか、結婚式の夜に新郎は遊郭にいくものだったとか、めったに聞けない話をしてくれる。ちなみに、新郎は男友達に連れられて辻という街の遊郭に行き、じゅり(遊女)にいろいろ教えてもらって、翌朝、新婦のもとに帰ったそうである。今100歳くらいの人までは、そんな習慣が残っていたらしい。

7月×日
 ♪焼肉バイキングで食べ放題、食べ放題ヨロレイヒ〜♪のヒットを飛ばした「桂雀三郎withまんぷくブラザーズ」の取材。新曲「サルサ・デ・ベツバーラ」が出たので、品川プリンスホテルのティールームに4人並んでもらって話を聞いた。全員、自前のアロハシャツを着ている。取材のはずが、途中から漫才みたいになっていって、4人がいっぺんにしゃべると、もうわけがわからない。テープを録音したけれどまったく役に立たなかった。雀三郎さんは、落語と歌では声の出し方がちがうので、両立はしんどいと言いながら、とても楽しそうだった。冬にはカップリング曲の「コモエスタひとり鍋」をヒットさせ、紅白を目指す。

7月×日
 きょうはディズニーアニメ「ラマになった王様」の公開日。吹き替えをしている藤原竜也の舞台あいさつを渋谷東急3に見にいく。MSNの仕事。客席の1列目はマスコミ関係者、2列目はファンクラブの女性で埋まっていた。ファンの年齢層は意外に高くて、30代、40代もいる様子。藤原竜也は背がすらっと高く、目がキラキラしていて透明な感じのする人だった。たまたま握手してもらった女の子は、興奮のあまりぼう然としている。

7月×日
 そろそろメロンパンの本を作ろうと思っている。本というより冊子で50部くらい。カラーコピーをとじたものになるかもしれない。内容は、メロンパン小説、メロンパン図鑑など。小説は依頼済で、今、エッセイをお願いする人を探している。五木寛之がいつかメロンパンのことを書いていたんだが。

7月×日
 「ビバ!ビバ!キューバ」というキューバ映画の試写を見に渋谷へ。キューバのトロピカーナというキャバレーを舞台にしたラブストーリーだという。トロピカーナにいった者としては、見ないわけにはいかない。緑に囲まれた野外ステージに、ナオミ・キャンベルばりの完璧なスタイルの女性がゾロゾロ出てきて歌い踊るという、すごいところなのである。私と同じテーブルになったメキシコ人男性2人組みは、半裸のダンサーのお尻を前に、たいへんな興奮状態に陥ってしまったのだった。4年前のことである。そんなわけで、意気込んで早めに到着し、ブックファーストで立ち読みしていたら、いつのまにか上映開始時刻が過ぎていた。さびしく帰宅する。