ライター仲宇佐のメランコリックな日常
2001年6月のダイアリー

仲宇佐ゆり

 フリーターという言葉もすっかり定着して、東大卒業してもフリーターになる人も少なからずいるという昨今、「プー」の別名とも言われたフリーライターという職業も、ものめずらしいものではなくなりました。でもこのフリーライターという職種、その実態はどんなものなのか謎な気がしませんか? いろんな人に会いに行けて楽しいんだろうかとか、ギャラはいいんだろうかとか、やっぱり寝ないで働いているんだろうかとか、普段なに食べているんだろうかとか、自分にもできそうな気がするんだけどとか……。そんな興味にお答こたえすべく、いま売り出し中のライター仲宇佐が、そのメランコリックな日々を日記で公開。はたしてその内実やいかに。

6月×日
 インタビューの仕事をさせてもらっていたビギナー向けパソコン誌「ぱそ」が休刊になってしまった。仕事先の雑誌がなくなるのは、マガジンハウスの「pink」、科学雑誌「サイアス」に続いて3つ目。

6月×日
 原稿料というのは不思議なもので、銀行に振り込まれるまで、いくらかわからないことがよくある。仕事を受けるときに確認すればいいんだけど、内容の相談をしているうちに聞きそびれてしまったり、その時点では決まっていなかったりする。私の少ない経験でいうと、1ページ25000円〜50000円くらいのことが多い。振込通知がポストに入っているとワクワクする。封をバリバリあけて一喜一憂。「けっこう手間かかったんだけどなあ」としょんぼりすることもあるし、「あ、けっこういい」とほくそえむこともある。

6月×日
 きょうは半年分の原稿料と取材経費を見直した。これまで無頓着でいたら、同業の友人に注意された。収入と経費をチェックするのは、事業主として当たり前だという。その通り。振り込まれていない原稿料18万円を発見。よかったよかった。さっそくメールで問い合わせる。経費も9万円くらい請求していないものがあった。今ごろ請求書を出すのは気がひけるけれど、9万円にはかえられない。あとで聞いたら、経費の請求を忘れるなんて、よっぽどお金持ちなのね、と編集者に思われたそうだ。
 請求書を書く作業は、最初のうちは経理部気取りで楽しめたものの、だんだん面倒になってきた。ためてしまうから、たっぷり半日はかかる。雑誌によっては、請求書を出さないと原稿料をくれないところもある。来月からちゃんとしなくては。

6月×日
 秋からの仕事の打ち合わせで、力士に会う。

6月×日
 クラビコードという古楽器の取材で田園調布へ。演奏家の人に初めて音を聴かせてもらった。小さくて繊細な音色。虜になる人の気持ちがよくわかる。帰り道、ルーシー・ブラックマンさん事件の織原容疑者の家と、故・鈴木その子さんが自宅を建築中だったというところを通った。織原容疑者の家は、長いこと植木屋さんが入っていないらしく、木がこんもりと茂っていた。駅前で俳優の中井貴一さんらしき人とすれ違った。キャップにサングラスなのではっきりしないけれど、たしか実家は田園調布。高校のテニス部のOBで、何回か練習に参加してもらったことがある。もともと人気はあったけれど、私たちが顧問の先生と対立したときに、生徒側の味方になってくれて、一気に株が上がったのだった。

6月×日
 MSNの取材で、上海出身の二胡奏者、チェン・ミンさんに話をきく。二胡というのは、日本で胡弓と呼ばれている中国の弦楽器。サントリーロイヤルのCMに、チェロ奏者のヨーヨー・マと一緒に出ていた美しい女性である。レコード会社の会議室で、弾いてもらって写真を撮った。チェン・ミンさんは中国でプロの奏者として活躍していたのに、外の世界が見たくて日本にやってきた。4畳半のアパートに住み、アルバイトをしながら日本語学校に通った。バイト先のコージーコーナーでは、見たことも聞いたこともない食べ物ばかり。日本語もできなかったので、メニューを持ち帰って丸暗記したという。その根性には頭が下がる。「I Wish」という新しいアルバムは情感たっぷり。家でよく聴いている。

6月×日
 川崎市岡本太郎美術館で、写真展「日本発見」を見る。岡本太郎が30年前の沖縄をどんなふうに撮っていたのか知りたかった。藤原新也さんや都築響一さんの作品も並んでいる。カタログと写真集を購入。美術館はうっそうとした森の中にたっていて、森林浴気分も味わえた。

6月×日
 半蔵門の国立劇場で、沖縄・竹富島の芸能を鑑賞。踊り、歌、狂言など、年に一度の「種子取祭」で奉納されるもので、出演は竹富島の人たち。島民約300人のうち100人が、この公演のために東京にやってきた。3月に取材でお世話になった人も舞台に上る。25年ぶりの催しとのことで、客席は超満員。毎年、練習を積んでいるためか、素人目にもレベルの高さがうかがえた。終演後、楽屋にあいさつにいく。

6月×日
 新宿の都庁の32階には職員のための食堂がある。夕方から居酒屋になって、一般の人も利用できるようになっている。きょうはここで先輩のジャーナリストと、ダイビング、フラダンス関係者と会合。あちこちの海で潜っている人たちなので、島の事情にくわしい。三宅島で家畜を避難させたとき、逃げられてしまった動物が何頭かいたという。島民の避難が終ってしばらくして、ヘリコプターから撮った映像を見たら、だれもいなくなった農家の庭先で、のんびり昼寝する大豚の姿が映っていたそうだ。豚はすぐに野生化するらしい。天敵はいないし、畑のおイモは食べ放題。有毒ガスにもめげずたくましく生きているのだ。

6月×日
 昨年からヒマラヤの清掃登山をしている、アルピニスト野口健さんの報告パーティーに出席した。清掃登山はあと2年続けるという。ノンフィクションライターの一志治夫さんが、野口さんの生い立ちやエベレスト挑戦について書いた『僕の名前は。アルピニスト野口健の青春』が、入口で次々に売れている。会場にはほとんど知り合いがいない。肉ジャガでも食べて時間をつぶそうと、皿に近づいたとき、異様な気配を感じて振り返ると、目の前に橋本龍太郎が立っていた。あとで長いスピーチをしていた。

6月×日
 劇団「黒テント」の練馬の稽古場で、ヴァイオリンとヴィオラのコンサート。

6月×日
 ライターの友人から、出版社に一緒に本の企画を出しましょう、と誘われた。「ライターとして、そろそろ本を出さないとまずい」というのだけれど、彼女は私よりずいぶん年下。とすると、私はもう相当にまずいことになっている。彼女はつねに意欲的で、次々と企画を立てては雑誌に提案し、実現させている。ライターの鏡のような人である。その日暮らしの自分を反省させられる。

6月×日
 編集者の人たちと、めずらしく夜中の3時まで飲んでしまった。一緒にいた友人が、薬とお酒を一緒に飲んでフラフラしていたので、タクシーで送って帰った。彼女は一人暮しだから、心配になって車の中から電話してみると、出ない。ひどく眠たがっていたから、寝てしまったんだろうと、翌朝になってかけても通じない。こまめに電話をくれる人なのにおかしい。倒れてるのかも。血の気が引いて、タクシーに飛び乗った。やっぱりきのう、Uターンして無事を確かめるべきだった。マンションの前からもう一度かけると、「は〜い」と気のぬけた返事。よかった、生きてる。朝は外出していただけらしい。36度の炎天下をとぼとぼ引き返した。

6月×日
 アルピニストの野口健さんを麹町の事務所に訪ねて、週刊誌の取材。まだまだ何かやってくれそうなエネルギッシュな人だった。

6月×日
 同業者3人で話し合った。パソコンで原稿を書いたあと、プリンターで印刷して見直すかどうか。同じ文章でも、パソコンの画面で読んでいるときと、紙に印刷してからでは、何かが違うというのである。これはビジネス文書でも同じで、紙にしたほうが、まちがいや欠点が見つけやすい。「物」にしないと客観的になれないということなのか。不思議である。私以外の2人は印刷派。私はプリンターを持っていないので反印刷派。やはりプリンターを買うべきか。でも洗濯機の上しか置く場所がない。

6月×日
 「東洋経済ベンチャークラブ」の取材でお台場のフジテレビへ。スーパーサーカス「サルティンバンコ」成功の秘訣をプロデューサーにきく。彼は、「サルティンバンコ」の担当になってからγGTPが3倍に跳ねあがった。そのくらいプレッシャーが大きいという。

6月×日
 沖縄の波照間島を旅行した友人が、日本トランスオーシャン航空の機内誌「Coralway」をわざわざ持ち帰ってくれた。一冊まるごと沖縄情報が詰まっていて好きな雑誌。太田雅子さんの「この人の沖縄力」と、仲村清司さんのページを愛読している。
夜、友人と近所のおでん屋へ。うす味のつゆがおいしい。となりのフランス人男性二人組は、おでんをひとつも注文しないで、つゆとご飯を肴に延々とビールを飲んでいる。お金がないのか、おいしいものを知っているということなのか。それを許すおやじさんもえらい。

6月×日
 住まいを特集したアエラの女性向け別冊「LIVE」は、私のまわりでは評判がいい。今回は、マンション賃貸の記事を書かせてもらった。30代独身は、想像以上に借りにくいことがわかってがっかり。年齢が高くなって結婚していないと、変な人なんじゃないかと勘ぐられて、大家さんの審査に落ちてしまうのである。世の中は夫婦や家族を中心に回っているのか。有名企業につとめていればまだいいけれど、フリーライターやフリーターはさらに厳しい。話を聞いた女性の中には、不動産屋に悪条件の物件ばかり紹介されて、ほとほといやになり、がんばってマンションを買った人もいた。
きょうはそのとき取材させてもらった高校の同級生の家に招かれた。間取りは1DK。風水にこっていて、お風呂は黄色、トイレはピンク、寝室はブルーで統一されている。エビのチリソースでビールを飲み、調子にのってワインをカパカパ飲んでいたら、貧血になってバッタリ倒れてしまった。キッチンの床にころがったまま、ドラマ「昔の男」と「OLヴィジュアル系」を見る。ようやく復活して洗面所にいき、ふと体重計にのったら、また倒れそうになった。針が62を指している。半年前は55キロだったはず。そんなバカなと、何度測っても結果は同じだった。身長は161センチ。やせなくては。

6月×日
 友人から、お見合いパーティーに誘われた。45歳以下の「スーパーエリート」が集まるという。スーパーなエリートということで、「結婚したい!」と普段から騒いでいる友人は興味津々である。彼女はビンボーな人は対象外なのだ。会場は新宿の京王プラザホテル。当日成立したカップル先着5組は八景島クルーズに招待される。のぞいてみたい気もする。仕事に役立つかもしれない、という不純な動機だけれども。問題は会費。15000円もするのである。今晩までに出欠の返事をしなくてはならない。