|
12月×日
フリーライターになってもうすぐ2年。とうとう「日刊ゲンダイ」の仕事をさせてもらうことになった。ゲンダイといえば、「ハリキリ橋龍にウンザリ」なんていう歯に衣着せぬ見出しでおなじみの夕刊紙である。買ったことはないけれど、むかし人類学の先生が「一番好きな新聞はゲンダイ」といっていたのを思い出して、ちょっと鼻が高くなった。
私が書くのは駅のガイドのようなもので、タイトルは「ターミナル駅 快得スポット」。最近ふえてきた駅の中の店やすいているトイレを週に一度紹介する囲み記事だ。手はじめに東京駅に三日間通った。道ゆくサラリーマンに突撃取材する。これまで「サイゾー」や「アエラ」でもやったことがあるけれど、こんなに好意的な反応は初めて。「ああ、ゲンダイね」みたいなかんじで、口元にうっすら笑みを浮かべつつ話をきかせてくれる。やはりゲンダイはおじさんの心の友なのか。夜、原稿を作ってメールで送信。
12月×日
アニメで熱烈なファンを持つ映画監督の押井守さんにインタビュー。初心者向けパソコン誌「ぱそ」の取材なので、コンピューターとの付き合い方についてたずねる。1月20日に公開される押井さんの新作「アヴァロン」は、アニメではなく、実際に撮った映像にデジタル技術を加えたもの。そんな映画を作っている人なのに、電子メールも携帯電話もインターネットも使わないで、奥さんと犬と熱海で静かに暮しているという。コンピューターというものの考え方がうかがえて刺激的だった。映画の公開を控えて雑誌などの取材が四十件も入っているそうで、「全部ちがうことをしゃべろうと思ってます。そうしないと自分が耐えられないんですよ」とのこと。
映画監督に話をきく仕事はとてもおもしろい。ユニークなことを考えているし、その考えを言葉でうまく伝えてくれる。ひとりで絵を描くのとちがって、自分のイメージをたくさんのスタッフにわかってもらわないと撮れないからだろうか。取材前には過去の作品をツタヤで借りて見なおすのだが、これがまた楽しい。取材も予習もこんなに楽しい仕事はなかなかないけれども。
取材場所の国分寺のスタジオを出て、初台の新国立劇場へ。ダムタイプのパフォーマンスを見る。ダンスというか体の動きと音楽でメッセージをつたえる舞台。過去2回見ているが、今回は拍手の少なさに驚いた。帰宅して「月刊東洋経済ベンチャークラブ」の原稿を書く。起業家の情報整理術について。
12月×日
アイルランド人男性と文楽をみにいく。友人の紹介で半蔵門の国立劇場に案内することになったのだが、私だって文楽なんて初めて。初対面だし、英語もダメだし、どうなることやら。音楽が鳴り出し幕があくと、思いのほか楽しんでくれているようなので安心する。幕間に劇場の売店にいった。彼は奥さんへのおみやげに、文楽の人形の頭部がプリントされたてぬぐいを物色している。でも文楽を知らない人には生首が浮いてるようにしか見えない柄だ。止めたいけど生首って英語でなんていうんだろう。などと思っているうちにニコニコと買い終わっていた。
12月×日
終日、映画の紹介の原稿を書く。朝日新聞のインターネット版「アサヒコム」の娯楽のページのお仕事。担当者が作ってくれたHTMLのひな型に自分の文章をあてはめると、あら不思議。サイトのページと同じデザインになって画面にあらわれた。これはいいですね。自分のサイトを立ち上げたくなる気持ちもわかります。
12月×日
きょうは日刊ゲンダイの発売日。サラリーマンの総本山、新橋駅の売店に出向いて百二十円で買う。さっそく開くと、ヘアヌードが目に飛び込んできた。ここじゃないここじゃない。ページをくってようやく自分の記事を探し当てた。
たとえ小さくても、新しい雑誌や新聞に載るのはなんともうれしい。しみじみながめてしまう。しかしよくみると原稿が直されているではないか。「朝食メニューが使える」と書いたのに、「使える」が「イケる」になっている。う〜む、これがゲンダイ文体というものか。そこで次回の原稿は、「おいしいお弁当」と書くところを「ウマい弁当」にしてみた。どうでしょうか。
いつのまにか始まった帰宅ラッシュの中、喜びも一段落してとなりの記事に目をうつすと、「勃起力を高める秘伝満載の巻物」、「キム・ミョンガンのSEX総研」……。あれ、私の記事ってエッチページだったのかな。あわててバサバサと新聞をたたみ、あたりを見回してしまった。
夜は久しぶりの外食。六本木アークヒルズの最上階にある会員制クラブに向う。もちろん私が会員なはずはなく、ライターの友人が誘ってくれた。クロークにコートをあずけると女性が個室まで案内してくれる。ステーキを焼く鉄板の前にはすでに数人が着席していた。会社経営者、コンサルタント、外資系企業社員といった人たち。
夜景をみながら極上のサーロインに舌鼓。おいしい。舌鼓ってこういうときに使うんですな。ごぶさたしてました。ガーリックライスが出て食事は終わり、ラウンジに移動してデザートとコーヒーに。うす暗い室内を見回すと、品のよさそうな初老の紳士がワイングラスを傾けている。東京にもまだまだ知らない空間があるものだ。今夜のお会計一万二千円也。
12月×日
週刊「SPA!」のビジネス版、「e+B(イープラスビー)」という月刊誌が3月に創刊される。創刊号の特集の一部をやらせてもらえるということで、扶桑社に打ち合わせにいった。冷たい風が吹きすさぶ浜松町の港のはずれ。あまりスパっぽくない土地柄である。話の途中で、相手の編集者は「じゃ、日変りで」などと夕食の注文をしていた。編集部で毎日晩ごはんが出るらしい。外で食べる時間もないということなのか。今回の企画は、スーパーというかカリスマというか、とにかくすごいサラリーマンに「なぜあなたはそんなにすごいのか」を語ってもらうもの。友人にはいそうもないので、人づてに探してみよう。
12月×日
自分へのお歳暮ということで、埼玉県の飯能にアーユルヴェーダを受けにいく。本場スリランカからきた女性が、香りのいいオイルでマッサージしてくれて、おでこにぬるい油をタラタラたらす健康法のようなもの。スリランカの女性は故郷を離れて半年ということで、ちょっぴりさびしそうだった。最後はハーブ入りのお風呂とハーブティー。150分一万二千円。こんなに散財しちゃって来年は大丈夫なんだろうかと考えつつ、ふぬけになって帰る。
|