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■チケット購入法
サッカーの試合をスタジアムで観る場合、何はなくともチケットがないことにはどうにもならない。では、そのチケットはどのように手にいれればよいか。
よほどのビッグゲームでなければ、当日スタジアムの窓口で購入することができる。とくに大きなスタジアムを持つミラノ、ローマ、トリノでは、ほとんどの場合、当日券でじゅうぶんだ。かえってパルマやペルージャといった小さなスタジアムしかない街で、ユヴェントゥスやインテル・ミラノなどの人気チームとの対戦を観るほうがすこし面倒だ。
イタリアでのチケット販売の仕組みをかんたんに説明すると、まず、アッボナメントという年間予約シートがあり、残りのチケットが試合ごとに前売券として売り出される。そして、さらに残ったぶんが当日券となるのだ。
たとえばミラノのスタディオ・サン・シーロはキャパシティが約8万5000人、ローマのスタディオ・オリンピコは約8万2000人、それに対してアッボナメントが、毎年差はあるが3万5000から5万といったところ。その残った3万から5万枚のチケットが毎試合ごと売り出される。それにくらべてパルマのスタディオ・エンニオ・タルディーニはキャパシティ自体が約2万9000人と少ないうえ、アッボナメントが1万5000はある。残りが1万数千枚しかないため、街の規模や人口に差があるとはいえ、人気チームとの対戦カードはどうしても手にいれにくくなる。しかしそれでも個人的な経験でいうと、買えなかったためしはない。
前売チケットは、銀行、バール、スタジアム窓口、オフィシャル・ショップなど各チームが指定した限られた場所で、通常試合日の5日前から2日前ぐらいに売り出される。「チケットぴあ」のようなものがあるわけではないので、あまり便利とはいえない。しかもイタリアでは、予約料を加算されるため当日券よりも前売券のほうがすこし高い。当日の天候のこともあるし、いろいろな条件を考えると、たいていの場合は当日券でいいと思う。
では、当日券の残席状況はどこで調べたらいいのか。かんたんなのは、ピンク色が目印のスポーツ新聞「ラ・ガゼッタ・デッロ・スポルト」を利用することだ。試合当日の朝、このスポーツ新聞を手にいれ、全試合の予想フォーメーションが載るページをひらく。各試合のレフェリーや出場停止選手の名前など、いろいろな情報があるなか、席のカテゴリー別に当日券の料金が書かれているのを見つけることができる。ここに載っている席は当日券があるということだ。試合開始の2時間も前に行けば、じゅうぶん手にはいるはずだ。万が一、“tutto esaurito”の文字が書かれていた場合は、残念ながら「完売」ということだ。それでもせっかくイタリアくんだりまで来たんだし、絶対にサッカーの試合を観て帰る、という人は、あとはダフ屋にたよるしかない。
■ダフ屋
私がダフ屋を利用したことがあるのは、日本、イギリス、イタリアの3カ国だけだが、見た目もかけ声も圧倒的に恐いのは、なんといっても日本のダフ屋だ。異様とも思えるあの迫力は、よほどのことがないかぎり近づく気にならない。
イギリスのダフ屋は、スタジアムのまわりをぐるっと取り囲んだ騎馬警官に、不正販売の現行犯でつかまる人もいるなかでの行動なので、かなり緊迫し、慎重に取り引きをするのが印象的だった。イギリスではイタリアと違い、一介の旅行者ふぜいがチケットを入手するのはかなり困難だ。当日券など絶対といっていいほどないので、ダフ屋の役割は大きい。
私はこのとき、チェルシー対リヴァプールの試合がどうしても観たくて、ロンドンはスタンフォード・ブリッジ・スタジアムへ出かけた。チケットは当然売り切れ。しかたがないので、ある“期待”をもって場外をふらふらしていた。
すると、音もなくすっと近寄ってきて、こちらの顔を見ずに横を並んで歩きながら、小声で「チケットあるよ、チケットあるよ」とつぶやく男がひとり。しばらく歩きながら商談すると、どんな席だか知らないが一番高い席よりもさらに高い、かなりの金額を要求してくる。「席はどこ?」「すごく観やすいいい席だ」、「でも高すぎる」「じゃあいくらならいいんだ」など交渉は続き、試合開始まであと10分しかない。
むこうも売れないよりは、とすこし値を下げ(それでもものすごい値段だ)、取り引きが成立すると、「いいか、前方左手にスーベニール・ショップがあるだろ。みやげものを覗くふりをして、金を出せ。おれはチケットを出す」。こちらの顔を見ることもなく、かなり緊張した様子で言う。おたがい用意したものを一瞬のうちに交換し終わると、また何事もなかったかのように去っていった。受け取ったチケットを見ると「アウェイ席」のリヴァプール側のもので、今度はこちらがそれから2時間緊張することになったのだが……。
それにくらべると(べつに世界のダフ屋を比較しても仕方ないのだけれど)イタリアのダフ屋は、やっぱりイタリア人。どこかコミカルだ。以前、ミラノのスタディオ・サン・シーロでインテル・ミラノとラツィオの試合を観戦したときのこと。その日のゲームは首位争いの大事な一戦で、当日券は一番高い席しか残っていなかった。せっかくだから高い席でも、と思いながらスタジアムにむかって歩いていると、10人くらいのダフ屋が大声で、「チケットあるよ」「今日は全部売り切れだからここで買わなきゃ入れないよ」「いい席あるよ」「これはおれの客だ。手を出すな」「おれのチケットが一番安いよ」……思い思いのことを叫びながら私のあとをついてくる。
いっさい無視して歩き続けると、ひとり減り、ふたり減る。100メートルほど歩くと、それでもまだ大声で話しながらついてくるのがひとりいる。そこではじめて、「席のカテゴリーは?」と聞くと、ニッコリして、「いい席だよ。二階席の一番前。うそじゃないよ、ほらチケットをよく見て。間違いないだろう……」説明がとまらない。
「それで、いくら?」。こちらの質問に一瞬躊躇する。すごくふっかけてきそうな気配だ。
「ええと……。この試合はものすごく人気があるからなあ……。チケットだってもう残ってないし……。××リラでどうだ」
彼が口にした金額はおよそダフ屋とは思えない、拍子抜けするほどの額だった。たいした上乗せではないのだ。
それでも、とんでもない金額を言ってみた、という様子なので、念のため「高すぎる」と言ってみると、「それじゃあ……」とかんたんに値下げに応じる。
そんなやってしばらく立ち止まって商談をしていると、またどんどんと人が集まりだし、まただんだんと大騒ぎになっていく。面倒なので交渉を打ち切り、買うつもりでいた一番高い席の3分の1ほどの値段で、二階席の一番前のチケットを買った。それでもかなり嬉しそうな顔をしていたので、かなりもうかったに違いない。真剣に交渉すれば、いったいどれくらいまで下がるのだろうか。
■チケットの値段
もともとイタリアではサッカーのチケット料金は高い。イギリスやスペインとくらべても高く、世界で一番高いといわれている。イタリア人の平均収入、ほかの物価からくらべるとちょっと信じられないほどだ。世界中から一流プレーヤーが集まっているのだから当然という声もあるが、正直いって高いと思う。だからチケットが売り切れないとも考えられる。
それぞれのスタジアムや対戦相手によって多少のちがいはあるが、だいたい一番高いメインスタンドの一階中央席で、日本円にして1万5000円、一番安いゴールネット裏の最上段席で2000円ほどだ。そして、もちろん一番安い席からチケットは売れていく。
だからミラノやローマのスタジアムの値段の高い席の一部分は、外国からの観光客ばかりなんていうことがざらにある。先日、パルマで観戦したときも高い席はかなり日本人の観客でうまっていた。私の後ろにいたイタリア人のおじいさんは、「まるで日本にいるみたいだ」と愉快そうにしていた。たしかにイタリア人はおじいさんひとりで、まわりには10人以上の日本人が取り囲むように座っていた。
さて、この高いチケットだが、同じ席でも安く買える人たちもいる。チケット売り場に張り出されている料金表をみると、同じカテゴリーの席でも“intero”と“ridotto”と2種類の料金が書かれていることがある。“ridotto”は「割引」の意味なのだが、どういう人に割引が適用されるのかまでは書かれていない。パルマのスタディオ・エンニオ・タルディーニは“ridotto”は“intero”の半額だ。利用できる人は利用しない手はない。では“ridotto”の条件とは? 残念ながら私も正確には知らないが、ひとつだけたしかなのはパルマでは女性客は“ridotto”。
ただし、ただチケット1枚と言うと正規料金になるようだ。きちんと“ridotto”1枚とか女性1枚とかつたえれば料金は半額になる。これは大きいですよお。なんたって一番高い席だって、1万2000円が6000円なんだから……。
あのお、だからといって男なのに、欲に目が眩んで“ridotto”1枚、なんて言わないように。どうせ入口でばれるんですから。
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