フィリッポのイタリアひとり歩き術
第18回 書店 Libreria

フィリッポ・蔭崎

■本屋のつかいみち

 イタリアに滞在している間、かなり頻繁に足を運ぶところのひとつに本屋さんがある。本を買いたいときはもちろん、地図が見たいとき、急に雨が降り出したとき、ショッピングや観光で歩き回りすぎて疲れたときなど、休憩するのにもよく利用させてもらっている。
 本屋なら何でもいいわけではない。条件としては、まず、椅子があってゆったりと座って本が読めるところ。そうじゃなければゆっくり休憩できない。この条件はある程度のクラスの本屋なら大丈夫だ。
 つづいて、映画本や写真集、ガイドブックが充実しているところ。この手の本がヒマつぶしにはいちばんいい。なおかつ、雑誌がおいてあれば最高だが、イタリアでは、雑誌はキオスクで売られているのが一般的で、本屋には置かれていないことが多い。雑誌まで条件に入れるとかなり限定されるので、これは涙をのんで我慢するとしよう。
 そして、さらにトイレがあればいうことはない。この条件をクリアできれば、「三つ星付き本屋」の称号をあたえてもいい。しかし、これは現実的にはかなりきびしい条件といえるようだ。あまりトイレのある本屋というのにお目にかかったことがない。
 なぜ、トイレ付き書店かというと、私は子どものころから、本屋に行くととたんにお腹が痛くなり、トイレに行きたくなるという、とても困ったクセを持っている。では、本屋に行かなければよいのだが、本屋に行くのが趣味といえるくらい大好きなのだ。だから、ふだん行く本屋にはどこにトイレがあるか、ない場合は近くにあるか、などの情報はきちんとおさえてある。私にとっては、本屋に行くときには、お金よりもテッシュペーパーが必需品だ。
 フィレンツェのフェルトリネッリ書店やミラノのモンダドーリ書店は、休憩するにはもってこいだ。街の中心にあるので、買物の途中にも寄れるし、椅子に座ってゆっくりもできる。昼ご飯をたらふく食べた後、のんびり写真集や画集などをながめるのもいい。また、地元のガイドブックをじっくり見て、レストラン情報をピックアップするのもよい。私はいつもこの手でレストランの電話番号や住所をチェックしている。
 これでお茶でも飲めれば最高なのだが、とふつう本屋には要求しないようなずうずうしいことを考えていたら、フィレンツェで1軒みつけた。共和国広場に面したところにある書店で、2階の一部分がオープンなバールになっていた。本屋のサービスもどんどん進化し、望みがかなえられていく。あとは欲しいページだけ写せるようなコピー・サービスがあれば……オイオイ、それじゃ本が売れないじゃん!

■イタリアの売れ本事情

 イタリア人はあまり本を読まないと一般的にはいわれている。だが本屋に行ってみると人でいっぱいだ。たしかに、本屋に人が入っているからといって、本を読むとは言えない。私だって雨よけや休憩のために使っているのだから……。
 いちばん人が多いのは、やはり新刊のフィクション・コーナーあたりだ。そこに貼りだしてあるベストセラーのランキング表をみると、イタリア人作家の作品よりも、アメリカやイギリス、南米の作家のものが上位をしめている場合が多い。とくにチリの女性作家イサベル・アジェンデやコロンビア人作家ガルシア・マルケスは、イタリアでは大ベストセラー作家だ。
 イタリア人のものでは、ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』、スザンナ・タマーロ『心のおもむくままに』などの単品のビッグ・ヒットは別として、ダーチャ・マライーニの作品やミステリー(イタリア語では「リーブロ・ジャッロ」)のアンドレア・カミッレーリ作「モンタルバーノ警部」シリーズなどは、ベストセラーになることが多いようだ(どちらも日本で翻訳出版されている)。

 そしてもうひとつ、すべての書店で、というわけではないが、書店内でひときわにぎわっている場所がある。
 6年ほど前だが、ボローニャの友人に、「ちょっとおもしろいところがあるからいっしょに行こう」と誘われ、一軒の本屋に行ったことがある。
 ちょっと古いつくりの一般書店で、雑誌もあつかっていた。奥にはいると、ひとつのコーナーに人だかりができている。
「ここ、ここ」と手招きする友人のもとへ行くと、そこはマンガのコーナーだった。しかも、日本のマンガばかりが並べられている。『めぞん一刻』『うる星やつら』『Dr.スランプ』……かなりの種類の日本のマンガが平積みになっている。
 イタリアで日本のマンガやアニメがものすごく人気が高いというのは、読んだり、聞いたりしていたし、テレビ・アニメでは『タイガーマスク』『ルパン三世』『アルプスの少女ハイジ』なども観たことはあったが、コミックスの現物を目にするのははじめてだった。
 ふきだしの中のセリフはすべてイタリア語に訳されている。そして、ページ開きがオリジナルとは反対の左開きに直されている。そしてよく見てみると、完結せずに巻の途中までしかないものもある。どうやら海賊版らしい。ボローニャの友人もそのことはわかっているらしく、「日本語が読めれば、こんな中途半端なものは読まずにすむのに……」と残念がっていた。
 その友人は「機動戦士ガンダム」(イタリア人は“ガンダム”を“グンダム”と発音する)の大ファンで、いろいろなグッズをコレクトしているようだった。一度日本から「機動戦士ガンダム」のCDをプレゼントに持っていったときの彼の喜びようといったらなかった。
 最近では日本のマンガやアニメはますます人気が高いらしく、ミラノやボローニャには日本のマンガ専門店まであるらしい。
 イタリアは、吉本ばななの『キッチン』がベストセラーになった国。大島弓子の作品でも出版したら、案外ベストセラーになるかも……なんていう考えは短絡的かしらん。