フィリッポのイタリアひとり歩き術
第14回 飛行機 Aereo-2

フィリッポ・蔭崎

■アリタリアに乗るテクニック

 好むと好まざるとに関わりなくアリタリアを選択した場合、多少のトラブルはあきらめるとして、できるだけムカッ腹を立てないためのテクニックがある。
 なんで金を払っている客のほうが気をつかってテクニックなどをあみださねばならないのか、などというもっともな疑問や不満はここではいっさい通用しない。なにせ「敵」は、基本的にはエコノミーの客などはクズだと思っているのだ。改心など求めるのは、東京都知事をやっている芥川賞作家に共産党を好きになれ、というくらい無理な話だ。無駄なことはせずに早道を選ぼう。
 では早道とは。
 それは「敵」に近づかないことだ。チェックインのとき、何がしかのサービスを受けたり、クレームをつける場合は、地上職員だろうが乗務員だろうが、できることならイタリア人スタッフに声をかけるべきだ。それがダメで日本人しかいないときには、かならず男性スタッフにするべし。日本人女性スタッフしかいないときは、運を天にまかせ(たまには「味方」もいる)、接触を最小限にとどめるほうがよい。
 たとえばどういったことかというと、前回述べたことを確認しながらご覧いただきたい。
 クラブ・ウリッセの会員だと出発までの待ち時間にV.I.Pラウンジを利用できる。連れが会員でないときでもイタリア人スタッフなら、何も言わず当然のようにV.I.Pラウンジ利用券を差し出す。日本人男性スタッフなら、「お連れ様のぶんもご用意させていただきました」と一言そえて差し出す。ところが日本人女性スタッフとなると「お客様お一人分しかご用意できませんが、それでもごいりようですか」とくる。「いつもだったら二人分用意してくれるのに」などと言っても、V.I.Pラウンジ利用券を差し出すことはない。成田空港ならしぶしぶ「Royal」とかいう喫茶店のドリンク券をゴソゴソとカウンターの下から引っぱり出し、さも特別なことのように慇懃な態度でわたされる。腹のなかで「チッ、ビンボー人がいっちょまえに」と舌うちしているのが明らかに顔に出ている。いまは連れがいて、日本人女性スタッフしかいないときは「お客様お一人分しか……」と言い始めたとたんに、きっぱりと「結構です。いりません」と答えるようにしているので、チェックイン時の嫌な思いは最小限ですんでいる。
 オーバーブッキング事件のときも、迷惑しているのはこっちだというのに、30分以上も待たせた挙句「まったく格安チケットなんて売るからこういうことになるんですよね」とのたまったのも日本人女性スタッフだったし、つけるべきマイレージのポイントをいつまでもよこさないので要求したときも3回の電話による抗議に敢然とたちむかい「お待ちください」の一点張りでなにもしなかったマイレージ担当も日本人女性スタッフだった(結局は営業部の男性に手紙で抗議したら2日であっさりとポイントがつき、2年間にわたる闘いに終止符をうった)。
 また、ミラノのマルペンサ空港でもこんなことがあった。エコノミーのチケットにも関わらず、クラブ・ウリッセ会員の強味で、いつものように混雑しているエコノミーのチェックイン・カウンターを避け、ビジネスクラスのチェックイン・カウンターにむかった。席はいつものように前もって予約してあったので禁煙だの窓側だのと注文つける必要もない。
 カウンターにすわるイタリア人女性のスタッフにチェックインの旨を告げると、
「えーと、フィリッポ・蔭崎様ですか? シモーネ・蔭崎様ではないですよね」
 という。
「いいえ、フィリッポ・蔭崎ですが」
「そうですよね、少しお待ちください。えーと、フィリッポ・蔭崎、フィリッポ・蔭崎……」
 コンピュータの画面を見ながら、何かを確認している様子だ。しばらくすると、ポツリ一言いった。
「やっぱり予約がキャンセルされているわ」
 事情を聞いてみると、先にヴェネツィアの空港でチェックインをしたシモーネ・蔭崎という人物を私と間違えたのか、私の予約した席のチケットを渡してしまい、そのときに「フィリッポ・蔭崎」の予約名をキャンセル扱いにしてしまったということらしい。まったくアリタリアらしいミスだと思って聞いていると、この女性はアリタリアの人でないらしく、アリタリアの職員が呼ばれた。ところが来たのが日本人女性スタッフだった。
「ご迷惑をおかけして申しわけありません。別のお席でもよろしいですか?」
 開口一番、面倒なことはいうなよ、所詮エコノミーの客なんだから、といった雰囲気をまきちらしながら言う。日本人女性スタッフが来た以上、教訓通り交渉するのはやめて嫌な目に遭うまえに早く立ち去ろうと思い、「はい、はい、それで結構です」とこたえた。
 すると予想外にここからカウンターのイタリア人女性が大活躍してくれたのだ。
 予約を取り消したのはアリタリアのミスであること、このお客様はクラブ・ウリッセの会員であること、などなどまくしたてた。アリタリアの日本人女性スタッフが、「この客が別の席でいいって言っているんだからいいじゃない」などと反論しようものなら、「そういう問題ではない」と一喝する。そして、20分にわたる討議のすえ、私のためにアリタリアからビジネスクラスのチケットを奪い取ってくれた(おかげでとってもラクチンだったよ、ありがとう)。
 笑顔でウィンクしながら「ビジネスクラスよ」と伝えてくれた彼女のいきいきした表情と、「本日はこちらのミスですので……」とビジネスクラスのチケットを手渡す日本人女性スタッフの苦々しそうな表情を思い出すたびにおもわず笑いがこぼれる。
 ただ、日本人女性スタッフも日本人女性客には勝てないようだ(これって勝ち負けか?)。知り合いのキョーコさん(国籍・日本、性別・女、年齢・40代)は、成田で出発5時間遅れを言いわたされた際、アリタリアの日本人女性スタッフに果敢に闘いをいどみ、ゴールデンウィーク中にも関わらず、見事、ビジネスクラスを3枚ゲットした。
「格安チケットじゃなかったんですか?」と訊くと、
「格安に決まってるじゃない! そんなことに関係なく、ああいうところとつき合うには、一歩も引かず文句言わなきゃ。それに本当のこちらの希望は、JALとか別便への振り替えだったんだから。それは絶対に無理だって言うから、しぶしぶビジネスで我慢したのよ」
 なるほど、上には上がいるものです。

 これはアリタリアに限らないことだが、日本人女性スタッフはサービスをする人間としてはサイテーである。サービス業にしてはあまりにも気位が高すぎる。外資系航空会社になるとその色はもっと濃くなる。外国人の客にはにこやかに話しかけることができても、同じ日本人の客相手だと能面をかぶったような表情になり、話し方もつっけんどになる(ただしビジネスクラス以上の客は除く)。また、外国人男性スタッフとワッハッハと話に夢中で、頼み事をしようものならムスッとされるのがオチだ(ユナイテッドにいたおまえのことだよ!)。べつにへいこらしてほしいわけではない。ごくふつうにサービス業にふさわしいサービスをしてほしいだけなのである。
 さあ、もう一度確認。できるだけムカッ腹を立てないためには、イタリア人、日本人男性の順だ。選択の余地なく日本人女性の場合は、さわらぬ神にたたりなし。

■新・アリタリアに乗るテクニック

 ここで、マイレージなどの関係もあって、どうしてもアリタリアを利用しなければならない読者のために特別に「新・アリタリアに乗るテクニック」を伝授します。みんなに教えると混みあいますので、内緒にしておいてください。
 いま日本─イタリア間には、アリタリアとJALが共同で飛ばしている便がある。これは機材、スタッフなどすべてJALだ。たんに席を二社で半分ずつ販売している。つまり、アリタリア側から席を予約すれば、JALの直行便にアリタリアの料金で乗ることができ(格安チケットなら2万円近くちがいがでるのではないだろうか)、アリタリアのマイレージ会員はポイントもつけることができるのだ。
 JALは鶴丸といわれた時代からくらべるとサービスの質はだいぶ向上していると思う。反対に、すこしサービスしすぎで、そこまで面倒みてくれなくてもいいのにと思うことがあるくらいだ(最近では、エコノミークラス症候群の影響か、やたらと水を持ってくるというサービス過剰ぶりだ)。
 私自身はまだ、この共同便を利用したことがないのでわからないが、ロンドン便などと同じような機体を使用しているとすれば機体は圧倒的に新しく、ピッチもすこし広いように感じる。また、ゲームやビデオの充実度がぜんぜんちがう。12時間ものフライトなのでこれはひじょうにありがたい(もし、イタリア便に合わせて古い機体を飛ばしていたらごめんなさい)。
 そして、アリタリアだとかならず問題になる発着の遅れ、これはかなり防げるはずだ。
 最後にいちばん気になる安全面はどうだろうか。これについてはアリタリアにとくに問題があるとは思わないが、JALもいろいろなデータを見てみるとなかなか信頼できそうだ。
 とくに「乗ったときからイタリア」をもとめていない人は、この共同便を使うことでかなりストレスが解決できると思う。