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■飛行機選びについて考える
日本からイタリアへ行く場合、ほんの一部の、時間とお金をふんだんに持ち合わせている大型客船利用者を除いては飛行機を使うことになる。10年前、20年前にくらべると飛行機代はおどろくほど安くなっているせいもあるのか、イタリア行きの直行便はいつ乗っても満杯だ。
さて、その日本とイタリアをむすぶ直行便には、ダイレクトのJALとアリタリア、モスクワ経由でローマに入るアエロフロートの3社がある。定価は同じはずだが、いまどきエコノミークラスのチケットを定価で買う奇特な人もいないと思うので格安航空券の値段を比較すると、当然JALがいちばん高く、いちばん安いのは当然アエロフロートだ(いつもビジネス以上で旅をされる方は、すみませんが読んでも無駄ですので、となりのモミQ太郎さんの連載でもご覧ください)。
私はトランジットがめんどうなので直行便を選択するが、JALは高いし、アエロフロートへの偏見がまだぬけていないため、アリタリア、ということになる。ただ、このアリタリアというイタリア国際航空はあんまり評判がよろしくない。
音楽学者の細川周平さんは著書『トランス・イタリア・エクスプレス』(筑摩書房)のなかで、「イタリア航空ALITALIAには、次のような意味が隠されているのはよく知られている。Always
Late In Time, Always Late In Arrival(つねに時間に遅れ、つねに時間に遅れる)」と書いている。作家・村上春樹さんは『遠い太鼓』(講談社)のなかで、「アリタリアからチケット代の払い戻しを取り戻すのに、かなりの労力と強力なコネとを要しても2年半もかかった」と、作家の佐藤亜紀さんにいたっては『外人術』(メタローグ)のなかで、「私が乗った最低最悪の飛行機はアエロ・フロートではなく、実はアリタリアである。無条件にイタリアびいきの私が言うのだ、これはもう、余程のことだとお考えいただきたい」とまで言い切っている。私の知り合いや友人たちのあいだでもアリタリアをほめる人をみたことがない。
私自身もこの10年ほどのあいだに40回あまりアリタリアを利用しているが、その間にはいくどもトラブルにまきこまれている。
まず、1時間以上の発着の遅れは20回を超える。そのなかには3時間遅れ2回と5時間遅れ1回、そしてなんといっても1999年11月6日、ミラノ・マルペンサ空港に閉じ込められたままの9時間遅れが含まれている。9時間といえば、あと3時間で成田に到着できる時間だ。空港からは一歩も出られず、時間つぶしをするところといえばデューティーフリーだけ。しまいにはそのデューティーフリーすらも閉店してしまった。そんなに遅れても、別の便に振り分けてくれることはもちろんなし。空港内で利用できる(それも制限があるというセコさ)食事クーポン券1枚と、1年内にふたたびアリタリアから「正規料金」でチケットを買うときに利用できる30万リラ(約1万8000円)分の割引券、というのが支払われたすべての損害賠償だ。こんな割引クーポン券、使った人が何人いたか教えてほしい。
私はアリタリアのV.I.Pラウンジを利用できたのでまだましだったが、ワールドカップのため同じ便で東京に行くキューバ・バレーボール・ナショナルチームの面々は、空港内の小さなかたーいベンチで大きな身体をもてあましていた。この疲れが残って負けたらどうしよう、と人のことながら心配になった。
そしてオーバーブッキング1回。このときは、キャンセル待ちになっていた次回分のチケットを取ってもらうことと、マイレージのポイントをつけるという条件で飲み、英国航空にてロンドン経由でミラノに入った。しかし、アリタリアの職員が「1時間早くカウンターに来てください」というものだから、かなり早起きして成田に行けば、カウンターには人っ子ひとりいないという始末。30分も待たされたあげく1人来た職員は聞いてない、という。結局、搭乗が始まってからようやくチケットが届けられた(だったらふつうどおりに来ても同じじゃねーかよ)。さらには、条件のひとつだったマイレージのポイントは、獲得するまで──3回の電話による抗議、2回の手紙による抗議のすえ──2年かかった。
そのほか、ロスト・バッゲージ1回、スーツケースを壊されること2回(また指定のヤナショーとかいう修理業者がサイテー)、ローマの職員による盗難1回……。細かいことまで言い出すときりがないほどだ。
ここまでいろいろなことがあると不思議に思うでしょう。じゃあ、なんでアリタリアに乗るのかと。こんなトラブルがあっても我慢できる、どんないいところがあるのかと……。
■私がアリタリアを選ぶワケ
やはりたびたびイタリアで出かけている知り合いの腎臓医M氏は、
「なんで、ダメだとわかっていてもいつもアリタリアに乗るんですか? 料金だってとくに安いわけじゃないし、ちょくちょく遅れるし、機体だって新しくはないし、いいことないじゃないですか」
と、あきれたように言う。
では、私はなぜアリタリアを選ぶのか?
まず最初にことわっておくと、さすがに4時間以上の遅れはできれば勘弁してほしいが、1、2時間程度の遅れなら、理由さえ分かれば仕方がないと我慢できる。その程度のことならほかに(たとえば中華航空のように何度も墜落事故があるとか、個人的にはユナイテッドからうけた非道の数かずとか)嫌なことはたくさんある。そのうえで、以下理由を述べます。
引っぱったわりには、まったくセコイ理由で申し分けないが、まずはマイレージのポイントをためていたこと(おかげさまで2回イタリアへただで行ってきました)。さらには、いろいろなサービスや特典があるクラブ・ウリッセの会員だったことだ。この会員であれば、たとえ格安で買ったエコノミークラスの客であっても、行き帰りともスーツケースなどの荷物を無料で運んでくれし、やわらかいソファー、飲み物や軽食が用意されているV.I.Pラウンジを利用できる。また、ビジネスクラスのチェックイン・カウンターが利用できるし、事前に座りたい席の予約もできる。
スーツケースの運搬は、お金さえ払えば宅急便で運ぶことができるのでいいのだが、あとの3つは便利でした。V.I.Pラウンジは、ミラノやローマや成田はもちろん、マドリッドでもパリでもロンドンでも利用したが、とても居心地がよく、あの退屈な待ち時間を静かな読書の時間に代えることができた。さきほど述べた、ミラノでの9時間足止めのときなど、V.I.Pラウンジでなければかなり苦痛度が増したと思う。
ビジネスクラスのチェックイン・カウンターが利用できるのも、何でもないようであるが、じつに便利だった。エコノミーのカウンターはかなり混みあっていることが多い。以前ロンドンからミラノに戻るとき、空港に到着するのが大幅に遅れ、いそいでチェックインしなければならなかった。さらにアリタリアのカウンターがなぜか大混雑していて、まともに並ぶと1時間くらいかかりそうだった。このままでは飛行機に乗り遅れる、と思ったとき、このサービスのことを思いだした。混雑を尻目に、となりにあるほとんど人のいないビジネスクラスのカウンターでチェックインして事なきを得た。
席の予約もとても便利なシステムで、私は足が伸ばしやすく、映画が観やすく、トイレへも行きやすい、いつも決まった席をとってもらっていた。
しかし残念ながら、私はその会員の資格を2000年の12月いっぱいで失った。会員資格取得の条件が、私が取得したころよりもきびしくなったので、ふたたび取得できることはなさそうだ。
このサービスを受けることができなくなっても、アリタリアを選択するであろうか。
それは、アリタリアを選んできた最後の理由である「乗ったときからイタリア」という気分を捨てることができるかどうかだ。イタリア人らしい人間味あふれるサービス、そしてなによりも離陸して最初に飲む、あの冷たいスプマンテの味を忘れられるかにかかっている。
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