フィリッポのイタリアひとり歩き術
第11回 ホテル
Hotel, Albergo, Pensione, Locanda


フィリッポ・蔭崎

■イタリアのホテルを知る

 旅に出ると、自分の家ではないどこかに泊まらなければならない。そしてほとんどの人はホテルに滞在することになる。ではどのようにして、どのような基準でホテルを選ぶのだろうか。当然、ふところ具合、ホテルに対する考え方と求めているものなどによって、その選択はかわってくる。
 たとえば作家の佐藤亜紀さんはエッセイ集『外人術』(メタローグ)のなかで、「目安として、分相応の宿1泊分の値段とふだん着ているシャツの値段は等しい」としている。景山民夫さんは『東へ三度、西へ二度』(マガジンハウス)のなかで、「よほど大ざっぱな人間でない限り、ホテルの選択には充分に時間と労力を費やしてから出かけるべきである。旅行代理店の言い分を鵜呑みにするな」と書いている(どうでもいいですけど、これらのエッセイ集べらぼうにおもしろいので一読おすすめいたします)。それぞれホテルのことでは何度となく失敗をして、その経験をもとに書かれているのでとても説得力がある。
 イタリアは、観光国だけあってホテルの料金はグレードと比較して少々高い。歴史的遺産の保存のため、勝手に建て替えができないので、建物自体は古いところが多い。またそれを「中世の雰囲気をそのままに残す、ロマンティックなプチ・ホテル」などと宣伝文句にしているところもあるが、実際は、内装など手入れが悪くて「こんなホテルに、こんな料金払えるか!」というところが少なくないのだ。佐藤亜紀さんと景山民夫さんの2つのエッセイも、偶然、フィレンツェでのホテル探しの苦労話が下敷きとなっている。寝られれば何でもいいという人は別として、ホテル選びは慎重にしたほうが、よりよい旅になると思う。
 では何を基準にホテルを選べばいいのだろう……。私は、はじめての場所へ行く場合、値段、ロケーション、部屋数、設備といったところを中心に、まず複数のガイドブックとにらめっこするところからはじめる。
 イタリアではホテルは政府観光局によって、5つ星L、5つ星、4つ星、3つ星、2つ星、1つ星の6つのランクに分けられている。これは他人の評価や、ホテル側が宣伝のために勝手につけるといったものではなく、ルームサービスは24時間かとか、シーツは毎日取り替えられるか、バスタブ、エアコン、ミニバー、テレビは備わっているかなど、設備、サービスによって違ってくるのだ。また星の数によって、料金の上限と下限は決められていて、ホテルの入口には必ず、この星が表示されたプレートが貼ってある。
 大ざっぱにいうと、5つ星L、5つ星は、ホテルで可能な設備やサービスはだいたい整っている。ちがいは、より豪華かどうかといったところ。ミラノの「プリンチペ・ディ・サヴォイア」やローマの「エクセルシオール」、フィレンツェの「ヴィッラ・コーラ」、ヴェネツィアの「ダニエリ」などがこのクラスのホテルだ。このクラスのホテルに泊まったら、きちんとホテルのサービスを利用して、ゆったりとホテルライフを楽しみたい。
 4つ星は、サービスや設備に関しては5つ星とさほど違いはない。ホテルのつくりや部屋が簡素になり、ビジネスホテルの色が濃くなってくる。団体旅行で使われているのは、たいていこのクラスのホテルだ。味気はないがサービス・設備はもうしぶんない。
 3つ星。このあたりからサービス、設備ともにわかれ目となるところだ。テレビはあるがエアコン、ミニバーはない場合がある。風呂もバスタブ付きとはかぎらず、半分くらいはシャワーのみの部屋だと思っていたほうがいい。ルームサービス、ランドリーサービスなどもないところがほとんど。個人旅行者にはもっとも人気のあるクラスだ。
 2つ星となると、ベッドなどは清潔だが、風呂はシャワーのみ、テレビ、エアコンなどはなく(エアコンは、あっても別料金という場合がある)、宿泊に最低限必要なものだけ揃っているといったところが多い。
 1つ星となると、バス、トイレともに共同がほとんど。料金の安さが一番の売りとなる。

 カテゴリーとは別にもうひとつ、おもに4つ星以上のホテルは、ヨーロッパタイプとアメリカンタイプに分かれる。格式高い雰囲気や室内調度品の豪華さを望む人はヨーロッパタイプを、機能性を重視する人はきれいで合理的なアメリカンタイプを選択するといいだろう。

■どんなホテルを選ぶのか

 さて、それでは私はどんな基準でホテルを選んでいるのか。その条件はいたってシンプルだ。ざっとあげてみると、
 (1)部屋数が50以下のところ
 (2)清潔であること
 (3)きちんとお湯がでること
 (4)街の中心部に近いこと
 (5)部屋にテレビが備わっていること
 といったところだ。この条件をもとに、そのときのレートも考えにいれて決定している。
 (1)の部屋数50以下というのはセキュリティ上のことからで、少なければ少ないほどよい。こういった少ない部屋数のホテルは、フロントなどホテルの従業員が客の顔をおぼえるので、部外者が侵入しづらい。団体旅行などでよく使われる大型ホテルは、誰が侵入しても宿泊客との判別がつきにくいため、置き引き、盗難などの犯罪がおきやすい。
 営業妨害になるといけなので実名はさけるが、ミラノの「I」、ローマの「J」(どちらも4つ星)などは「泥棒ホテル」として名高い。以前、ツアーでこのローマのホテルを利用した人によると、添乗員からチェックインのときに、
「このホテルで先週、日本人旅行者が盗難にあいました。セイフティ・ボックスが壊されて貴重品が盗まれたそうです。セイフティ・ボックスも安全ではありません。また、夜寝るときには、戸の前にスーツケースを置いて、簡単には戸が開かないようにしましょう」
 と注意されたそうだ。おい、旅行社、注意する前にそんなホテルに泊めるなよ! と言いたいよね。
 これは極端な例としても、ロビーなど人が集まりやすい場所では、荷物から一瞬でも目を離すと、ずうーと後悔することになるのでご注意を。
 (2)の清潔さは誰もが望むところだとは思うが、とくにベッドやシャワー、トイレが清潔でないと、部屋にもどる気がしなくなる。私は若い時分に、低料金に引かれて、とある2つ星ホテルに泊まったことがある。いやー、すごかったです。ベッドの下は5センチ以上のほこりの層で埋めつくされているし、寝具はやぶけていてボロボロ、トイレやシャワーは水垢だらけ、照明はトイレ兼シャワー室にしかないので夜になると部屋は真っ暗で本も読めない、テレビは壊れている、従業員になんとかしようという気持ちがない……。3泊予約していたのですがもちろん1泊で逃げ出しました。いまでもあるのかしらん。
 (3)に関していえば、あたりまえのようだが、イタリアの3つ星以下のホテルでは意外と注意しなければいけない点だ。お湯は出ることは出るがぬるいとか、一定量を使いきってしまうとまた湯がたまるまで(およそ4〜6時間)使えなくなるというところも少なくない。
 私はバスタブに興味がないのでシャワーだけで充分なのだが、使いたいときに使いたいだけ温かいお湯が出る。これは必要最小限の条件だ。若いうちは水だけでも大丈夫だったんですけどね……。もう40歳だし、そういう旅はしたくないです。
 (4)も私にとっては必要な要素だ。私は昼食後、ホテルにもどって昼寝をするという習慣をもっているので、行き帰りのしやすいホテルがいい。また、尾籠な話で恐縮だが、少々胃腸が弱いので、いざというときにすぐにもどれるところがうれしい。なんといっても本屋に行っただけでもよおしてしまうんですから……。もうひとつは、私のような買物好きの人間は、買ったものを持ったまま歩きまわるのも邪魔だし物騒だし(そんなに買うなよ)、そんなことも理由のひとつだ。
 フィレンツェなどでは、街の中心には大型ホテルを建てるスペースがないため、団体旅行でよく使われるホテルはすこし離れたところにある場合が多い。私などは街の中心から歩いて15分ほどにあるカッシーネの森あたりのホテルでさえ嫌なのに、知り合いが参加したツアーでは7キロはなれた郊外のホテルが用意されていたそうだ。たかが7キロなどと高を括っていけない。交通の便を考えると、東京におきかえた場合、立川や小岩にホテルがあるよりも不便だと思う。もし、あなたがフィレンツェやローマに行くとき、シェラトンとかホリデーインとか世界的なチェーンの名を言われたら……要注意です(ただし、中心地嫌い、乗り物好きの人を除く)。
 さいごの(5)、これはあくまでも私個人の嗜好によるもの。朝おきるとまず「カナル5」のニュース番組でおおよその出来事と天気予報をおさえる。夜は……好きなんですよ、イタリアのくっだらないバラエティ番組が(人気司会者ピッポ・バウドのものなんかがとくに。「うわっ、サイテー」という声が聞こえてくるようです)……。
 それにしてもイタリアのバラエティ番組は本当に馬鹿げてるんです。男性の人気司会者をぐるりと女性の出場者が取り囲み(それもとびきりの美人ばかり!)、これがまたほぼ全員、裸同然の水着姿か隠している部分のほうが少ないドレスというセクシー路線。そして素人をまじえて全員でゲームに歌に踊りに大騒ぎ(ここ最近はクイズ番組が大流行)。この国は本当にカトリックを国教とするヨーロッパの先進国なのかと疑いたくなるほどだ。
「下品で最低ね、イタリアのテレビ番組は!」
 といってドイツやノルウェーやイギリスあたりから来ている女性たちやフェミ系の人々はみんな怒ってましたね。
 えっ?私ですか? もちろん私自身はけっして吝かではないんですが……。失礼いたしました。