フィリッポのイタリアひとり歩き術
第4回 レストラン その2
Ristorante Trattoria Osteria Pizzeria


フィリッポ・蔭崎

 前回は、レストランを選ぶ基準や方法について書いたが、今回は、よりレストランでの食事を楽しむためのちょっとした工夫について。どうでもいいといえばいいことなのだが、気になるといえば気になること。さてさて……。

■予約をすると得をする?

 さて、イタリアで外食をする場合、行きたいレストランが決まったら、いくつかのことをおさえておいたほうが、より食事が楽しいものになると思う。「うまいもんはどうやって食べてもうまい」と言われそうだが、そうとばかりは言えないこともある。
 まずは予約をすること。たとえば、日曜日の昼食時は、前もって予約をしておかないと店を見つけるのに苦労することになる。日曜日は開いている店が少ないので、ただでさえ見つけにくいうえ、カトリックを信仰するイタリアの人は、おしゃれをして午前中に教会へ行き、昼食をレストランでとるというのが今でも習慣になっている。だから店が開いていても、予約でいっぱいということが少なくない。
 そのほか、人気の高い店に行きたいとき、週末の夜ももちろんだが、ふだんでも、食べたい店が決まっていれば、予約をするほうがいいと思う。はいれる、はいれないということではなく、とおされる席やサービスが微妙に違ってくるからだ。
 では、私がいつもいつもきちんと予約をしているかと聞かれれば、答えはノー。前回書いたようなヴェネツィアでの苦い思い出があるにもかかわらず、じつは、何か面倒くさくて、その場しのぎで決めていることが多い。なので、失敗談には事欠かない。
 ある日、フィレンツェでのこと。その日も予約をせず、夕食を食べにホテルを出た。食べたいと思っていた店は予約でいっぱいで今日は無理だという。第二候補の店も一時間くらい待つことになるという。そこで、第二候補の店のすぐ近くにある「リストランテ・M」に白羽の矢がたった。「リストランテ・M」は、多くのガイドブックなどにも紹介されている名のしれた中級レストランだ。
 中へ入って聞いてみると、ひとつ席があいているので大丈夫だという。ひと安心。カメリエーレに案内され奥へいく。入り口付近のテーブルは全部うまっているが、奥の部屋はひと組みお客がいるだけで、まだまだ充分に席は残っている。夜8時すぎ、まだこれからがディナータイムの本番なんだ、などと思いながら、案内された席についた。ひと組みいた、英語で会話する男性ふたり連れのお客のとなりだ(だいたい今思えば、イタリアじゃ、よほどのことがないかぎり、夕食時に男のふたり連れがとおされる席なんて「陽の当たらないゴミ箱の横」だよな)。
 オーダーをすませ、ワインを飲みながら料理が出てくるのを楽しみに待っていると、なにやら入り口のほうから、聞き覚えのあるにぎやかな音が近づいてくる。そのとき私の疑問はすべて氷解した。この充分に残された席の意味を……。
 それは、東の果ての「神の国」からいらした団体旅行のかたがたのお席だったんです。その数40名強。どうやらみなさんショッピングの後らしく、大きな紙袋を両手にかかえてのご入場。さすがに荷物を持ったまま席にはつけないと思ったらしく、添乗員をつかって、あいているスペースに戦利品を積み上げはじめた。アルマーニだろうがグッチだろうがプラダだろうがフェラガモだろうが、おかまいなしに積み上げられたその「欲望の山」の姿はなかなか壮観だった。
 誤解のないように言っておくが、べつに私は、団体旅行をする人を馬鹿にするとか、ブランド品を買うのがみっともないなどと思っているわけではない。経験上、団体旅行の便利さも心得ているし、私自身、友人たちからも御墨付をいただくほどの「買い物大好きの物欲・消費人間」だ。団体旅行しようが、ブランド品を買おうが、そんなことは本人の自由だ。
 問題はマナーである。買い物をして荷物がいっぱいになれば、いちどホテルにもどってから出直すとか、先に食事をしている私たちを見つけて、「なんだ、ほかにも客がいるのか」と聞こえるように不満を言わないとか、ごくあたりまえのマナーである。そのうえ彼の国の人々は、残念ながら集団になると、どうも羽目をはずされる傾向が強いようだ。席についたとたん、まわりにはお構いなしにタバコをぷかぷか。フラッシュをバシバシたいて記念写真を撮りまくる。立ち歩いてビールをつぎまくる。酔っぱらって遠くにいる人にむかって大声で話す。そのほか、まだまだ……。おいおい添乗員、なんとかしろよ。ここはファミレスや動物園じゃねぇーんだ! となりの英語で会話する男性ふたり連れも、私に注意してくれるようにと催促してるし……。
 席をかえてもらおうとカメリエーレをよぶと、他の席は全部うまっているとのこと。なるほど、予約をしなかった私が悪かったんですね。反省します。それでも、料理がどれもおいしかったのが不幸中の幸いでした。
 さて、予約の重要さはわかったけれど、イタリア語や英語ができるわけじゃないし、という方もいるだろう。簡単です。予約したい日時、名前を紙に書いて(その言葉はガイドブックに必ず書いてある)、ホテルの人に電話をしてもらうか、場所の確認と下見を兼ねて、観光のついでに直接店に行って紙を見せればよい。

■レストランでの服装術

 つづいて服装。イタリアのレストランは、それほどドレスコードにうるさくない。なので私がふだんかよっているような家族経営的な小さなトラットリーアや中級のリストランテなどでは、カジュアルな服装の客もかなり見かける(イタリア人はカジュアルでもかっこいいんだけどね)。本来的には、自分自身がくつろげて、ほかのお客さんに迷惑がかからない程度に清潔で、楽しく食事できる服装で行くのがいちばんだと思う。
  ただ、ヨーロッパでは、階級がはっきりとわかれていて、それなりのところに行くためには、それなりの格好をするという暗黙の了解がある。とくにイタリア人は、身なりでひとを判断するところがある。だから、ある程度のレストランになると、自分自身がよければとばかりは言っていられなくなる。カジュアルなスタイルだと、まわりとの調和がとれなくなり、レストラン全体の雰囲気をこわすことになるのだ。
 私も一度、事情があって、ミラノの高級レストラン「リストランテ・B」にデニムのシャツにジーンズででかけたことがある。入場を断わられることはなかったし、カメリエーレもあからさまに嫌そうな顔はしなかったが、とおされた席は、やはりいちばん奥のブロックで、まわりにいたのはTシャツに半ズボン姿のドイツ人夫婦ひと組みだけだった。それは「食べさせてはやるけど、ほかのお客様の邪魔をするんじゃないよ」と言われているみたいなとても隔離された席だった。
 たしかに、すこし離れたブロックを見てみると、それはそれは、お金持ちそうな紳士・淑女が 、上品な服をまとい、悠然と食事を楽しんでいる。それはただ値段の高い服や装飾品を身につけているという意味ではない。すこしも無理しているところがなく、じつに自然にとけこんでいて、とてもシックなのだ(あの勘違いした“シロガネーゼ”っていうのは、本当はこうなりたいんだろうな)。
 私はといえば、高級レストランらしい重厚な雰囲気の店づくり、毅然としたカメリエーレの作法に私自身がそぐわないことが気になり、はっきりいって料理の味も覚えていないほど居心地が悪かったです。まともなサービスを受けたければ、そのつもりで来いということなんですね、きっと。
 それともうひとつ気をつけて。イタリアでは、いくら立派なスーツを着ていても、靴がボロければ、すべてが台なし。まさに文字どおり「足元」を見られますので。