フィリッポのイタリアひとり歩き術
第2回 バール Bar その2

フィリッポ・蔭崎

 2回目も前回にひきつづき、イタリアになくてはならない「バール」について。前回もふれたように、バールは、飲んだり、食べたりするのに利用するのが基本だが、そのほかにも、人それぞれによって、いろいろな利用法がある。ここでは、私の個人的な利用法を紹介しよう。

■バール、かくれ利用法

 さて、本来の目的以外の利用法もバールにはある。あくまでも私個人にとってだが、まず第一にトイレだ。イタリアでは、公衆トイレというものがほとんどないので、旅行者にとってはとてもありがたい。ちょっとお腹に不安をかかえている私などは、これまで最悪の危機をすくってもらったことは、一度や二度ではない。
 あるときフィレンツェで、友人のイタリア人女性と食事をした帰りのこと。タクシーに乗るほどの距離ではないけれど、夜はとても物騒なので、家まで送ってくれないかとたのまれた。美人が多いイタリア人女性の中でもとびきり美人の彼女。いっしょに街を歩いていると、文字どおり前から来る男、道ばたに立っている男たちが振りかえり、うらやましそうにこちらを見る。「あの男、ついてやがるな」と声に出すものまでいる。こちらも気持ちが悪かろうはずもない。時は5月、イタリアでも散歩していてもっとも気持のいい季節だ。
 が、しかし、こういうときにかぎってくるんです。しかも、大きい方が。まるで天罰のように……。
 トリニタ橋からポンテ・ヴェッキオへ通じるサン・ヤコポ通りを歩いているときに事はおきた。とても我慢できそうもない。ちなみにイタリア語で「もう我慢できない!」は、「ノン・チェラ・ファッチョ・ピュ!」。みなさんが、こんな言葉を使わずにすむことを祈るが……。
 意識がもうろうとするなか、目の前に見えるは、ポンテ・ヴェッキオのたもとにある一件のバール。助かった!
「ちょっとバールに寄っていかない?」と私。
「バール? あそこのバール、美味しくないわよ。コーヒーだったらもうすぐだから、私の家で飲んでいって」(ふつうの状態だったらもちろんよろこんでそうするよ)
「いや、あそこの店はジェラート(アイスクリーム)もおいているから、どうかな?」(この状態でアイスクリームなんてくえるわけないよな)
「いいわね、行きましょう」(助かった!)
 そして店に入るなり私が発した言葉は、「ウン・カッフェ・ペル・ファボーレ・エ・ポイ・ドーヴェ・イル・バーニョ?(エスプレッソを一杯ください。あと、トイレはどこですか?)」(おいおい、アイスクリームを食べるんじゃなかったのかい)
 バリスタの「地下にあるよ」という言葉を聞くやいなや、事態をすべて理解した彼女の大爆笑をものともせずトイレにかけこんだのであった。(助かった)
 おそらく何も注文せずにトイレを使用することもできるとは思うが、好むと好まざるとにかかわらず、もしくは、美女がいるともいないともかかわらず、私はミネラルウォーターやエスプレッソをたのむようにしている。
 事がすんだあと、彼女が必要以上に爆笑するなか、無事に送りとどけたのであった。

 話はすこし横道にそれたが、そのほかには「トトカルチョ」のためにバールを利用している。
 トトカルチョについては、のちほど「サッカー」のところでくわしく述べるが、かんたんに言ってしまえば、勝敗やゴール数(ゴール数の場合は「トトゴール」)などを予想する「サッカーくじ」のこと。もしも、イタリアを旅行中にトトカルチョにトライして、万が一あたりでもすれば、旅行代がすべてういてしまうどころか、一生旅行して遊んでいられるくらいの配当がつくこともある。つまりはかんたんには当たらないということだ。私自身は、当てることよりも、よりサッカーを楽しむことを目的として買っている。そして、もちろん、いまだ当たったことはない。
 すべてのバールで、トトカルチョをあつかっているわけではない。トトカルチョが買えるバールには、グリーン地に黄色い文字で「Totocalcio」と書かれた看板が出ている。店内に入ると、たいがい「スケディーナ」とよばれる専用の用紙が置かれているので、それに予想を書きこんで店の人にわたせばよい。あとは、専用のマシーンで処理された半券をうけとり、お金を支払っておしまい。ひとこともしゃべらずに済ませることだってできる(その場合でも、最後に「グラーツィエ(ありがとう)」ぐらいは言いましょう)。
 ここで私がいつも驚いてしまうのは、じつは、この処理をする専用マシーンのことなのだが、このことものちほど「サッカー」のところで。